ただし、「褒め過ぎ」に注意!
「承認欲求」を満たすことは、「部下を褒めること」ともつながります。褒めることは、近年、多くの企業で奨励されるようになっています。民間の検定が設けられるほどで、多くのベテランマネジメント層の方たちが、「とにかく部下を褒めなければ」と躍起になっている場合もあります。
ただし、私は褒めすぎにも注意しなければならないと考えています。組織学者・経営学者である同志社大学の太田肇教授は、その著書『「承認欲求」の呪縛』(新潮新書)で、現代人が承認欲求に縛られて身動きが取れなくなっていることを指摘しています。
考えさせられるのは、同書の中で取り上げられたある病院の事例です。その病院では、看護師など医療従事者が常に売り手市場傾向で離職率が高い課題に対して、ある策を練りました。病院の経営効率向上と給与アップが難しい中、医療従事者をもっと褒めようと、「最優秀職員賞」を設け、定期的に表彰する取り組みを行ったのです。
ところが蓋を開けると、この賞を受賞した人のほうが比較的短い期間で辞めていくという現象が起きていたのです。その理由を追跡して分かったのは、褒められて表彰されることで「次はもっと頑張らねば」というプレッシャーを感じ、それに耐えられず辞めていく人が多い事実でした。表彰されるほどの人は、責任感も強かったのでしょう。「表彰を受けたにもかかわらず、これ以上はもう頑張れない」と感じ、辞めてしまっていたのです。この事例からも、褒めることの難しさが分かります。
部下を褒める際には、過度な褒め方で過大な期待をかけてしまうと、プレッシャーでつぶれてしまう恐れもあります。偏ることなく部下全員を褒めることを心がけ、漠然とではなく具体的な成果や工夫を認めることです。一人ひとりの状態や気持ちをよく考え、適度な励ましになるよう、配慮することもが重要なのです。
「ありがとう」と言い合える組織づくり
『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(株式会社FeelWorks)前川孝雄 著
人は、「自分はお客さまに貢献できている」「社会の役に立っている」「自分の仕事が誰かの笑顔につながっている」と感じられるからこそ、仕事を頑張り続けることができます。まさに働きがいです。ただ現実には、部下が「自分が役立っている」と実感できる機会は、そう多くはありません。お客様にとってサービスに不満があると、ほぼ必ずクレームになりますが、わざわざ「ありがとう」とは伝えに来てくれないからです。
そこで、「自分たちが役立っている」と感じられる場面を演出するのも、上司の大事な仕事になります。お客様や部下同士で「助かった」「ありがとう」という感謝の言葉が行き交うように、仕掛けをつくるのです。やり方は非常にシンプル。朝礼や夕礼などのミーティングで、お客様からのクレームやミスの共有だけでなく、お客様に喜んでもらえた情報や、メンバーに感謝したエピソードなどを共有するコーナーを設けるのです。これは、週に10分でも効果があります。
私が注目するある通販会社では、毎日の朝礼でお客様から「ありがとう」と言われたエピソードを共有しています。もともとクレームを受けやすい業態ですが、「ありがとう」の共有等の取り組みでお互いに感謝し合うポジティブな組織風土ができていますから、組織内にネガティブな空気は蔓延しません。
人は「ありがとう」と言われると、それに借りを感じ、相手に「ありがとう」を返したくなります。心理学でいう「返報性の法則」です。部下同士が「ありがとう」と言い合える組織なら、プラスの連鎖が起きるのです。上司の皆さんには、この連鎖を起こすために組織の中で相互に感謝する風土が生まれる仕掛けを考え、実践することをお勧めします。







