上司は、個々のチームメンバーが仕事を「大切な自分事」と受け止め、率先して進めようとする状態を整えるべきです。これによって、自律的に働く個人とチームが成り立ちます。反対に、上司も部下も、仕事を「やらなければならない苦役」と受け止めると、互いの役割や関係も辛く感じることでしょう。そこで、どうすれば仕事を「没頭して熱中する喜びや楽しみ」と感じることができるのか。ハンガリー出身の心理学者ミハイ・チクセントミハイによる、「フロー理論」を紹介しましょう。
※本記事は前川孝雄『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』から抜粋・再編集したものです。
「フロー理論」とは
チクセントミハイは、大人が面白さや楽しみを得ることだけに没頭する体験に共通する条件を調べました。この感情は、レジャー、趣味、仕事などを問わず、遊びのような性格を持つ「何か」をしているときに起こりやすくなります。自発的で、その行為自体が最高に楽しく、ワクワクし、その生み出す感覚のゆえに夢中になる状態であり、これを「フロー」と名付けました。それは、この体験を語る多くの人が、この状態を淀みなく自然に流れる水に例えて「フロー〈流れ〉の中にいるようだ」と表現したからだとします。
フロー体験に共通の条件は次の通りです。
1、目標が明確である(達成のために何をすべきかが明らか)
2、迅速なフィードバックがある(行為の結果・成果をすぐに実感できる)
3、スキルとチャレンジのバランスがぎりぎりで取れている(十二分に力を発揮できるストレッチを要する
活動)
4、その活動に集中している(一点に関心を焦点化)
5、時を忘れ、忘我の状態にある(無我夢中で行う)
6、自分の行動をコントロールできていると感じている(確かな有能感)
7、世界と一体化していると感じている(安定した充足感)
仕事とフローをめぐる矛盾
チクセントミハイは、さまざまな活動とフローとの関係を分析し、仕事との関係についても興味深いコメントを記しています。
まず、大人のフロー体験の機会を調べると、家にいるプライベートな時間や自由時間よりも、仕事をしているときにより多く報告されているのです。一方で、ワーク・ライフ・バランスが重視されるように、多くの人はなるべく早く仕事を離れ、私生活で自由な時間をより多く取ることが幸せな生活だと考えがちです。この矛盾はどこからくるのでしょうか。