上司が部下のやる気を湧き上がらせるには、人の心の構造を理解しておくことが必要です。動機づけには、「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があるとされています。前者は「会社から評価され昇進したい」「より高い給料が欲しい」「命令に従わないと不利になる」といったもので、これまでは外発的動機づけを多用しがちでした。しかし時代は変わり、若者を中心に「会社の命令は絶対」「従っておけば安心」とは考えないようになっています。終身雇用と年功序列が崩れつつある今、外発的動機づけが効きにくくなっているのです。
※本記事は前川孝雄『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』から抜粋・再編集したものです。
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大切なのは内発的動機づけ
現代の上司に必要なのは、部下を内発的に動機づけることです。モチベーション研究の大家であるアメリカの心理学者エドワード・L・デシは、内発的動機づけには二つの因子が必要だとします。一つは、自分の「有能さ」の感覚、つまり「自分にはできる」と有能感を持つこと。そしてもう一つは「自己統制」、つまり「自分でコントロールできる」「自分に裁量がある」ということです。
有能感を与えるには、部下に仕事を分担する際に、部下の能力をよく見極め、「少し頑張れば達成できる仕事」を任せます。また、自己統制については、本人が自己裁量で「工夫できる余地」を残した状態で仕事を任せることです。任せた以上は、部下自身が仕事の当事者であり主人公です。上司は管理職ではなく、支援職としての役割に撤しましょう。
こうして内発的動機づけが整えば、部下は徐々にやる気をみなぎらせてくれるはずです。
「思い」と「思いやり」と「分かりやすさ」で語る
以上の点を踏まえながら、次に上司は部下への動機づけに際し、どのように話しかけるべきかに留意しましょう。いくら動機づけの大切さを心得ていても、上司の話し方が稚拙であれば、部下に仕事の目的を腹落ちさせることも、やる気を沸き立たせることもできません。現代の上司には、部下に伝わる話し方をすることが必須なのです。
部下に伝わる話し方には、「思い」と「思いやり」と「分かりやすさ」の3つの要素があると、私は考えています。
第一の「思い」とは、上司自身が組織運営や部下育成や活躍支援に対し、「このような確たる思いを持っている」という主体性です。「私はこう考える」「私はこうして欲しい」と、「私」を主語にして話せるかどうかです。「会社の方針だから」といった伝書鳩のような言い方や、「とにかく、こうするように!」という問答無用の話し方では、部下は心底から納得してくれません。また、「これで取りあえずいいかな…」「こうでないと、まずいだろう…」など他人事の話し方でも、部下は上司の「思い」を感じ取れません。部下の心を動かすには、自分自身の言葉で語ることが欠かせないのです。