10代の頃から天才と呼ばれてきた日本代表MF久保建英が、覚醒のシーズンを迎えている。昨夏に加入したレアル・ソシエダで、自己年間最多を大きく上回る8ゴールをマーク。ラ・リーガ1部の上位をキープするチームをけん引している。戦いの場をスペインへ移して4年目。これまで苦戦を強いられてきた21歳が、自らたぐり寄せたターニングポイントを追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)
実は「読書と会話」が趣味
久保建英の知られざる一面
日本代表の遠征時における久保建英の姿がちょっとした話題になったのは、18歳になった直後の2019年6月だった。手にしていた書籍『スタジアムの神と悪魔 サッカー外伝』の出版元が、哲学や心理学、社会学などの専門書を中心に扱う学術出版社のみすず書房だったからだ。
当然ながら『スタジアムの――』も、戦争から経済までを含めたさまざまな歴史や、著者であるウルグアイ人ジャーナリストの個人史と、南米のサッカーシーンとが結びつけられた格調高いエッセイだった。18歳の少年が読むにはやや難解に映ったからこそ、驚きをもって受け止められた。
もっとも、久保はこのときだけ読書に夢中になっていたわけではない。ピッチを離れたときの趣味として「本を読むこと」を挙げてきた。知的で物静かなイメージが膨らんでくる一方で、対照的な一面も持ち合わせる。昨年7月。レアル・ソシエダの入団会見で趣味を問われた直後だった。
「好きなのはフットボールの試合を見ることと本を読むこと、そして話をすることです。しゃべることは本当に大好きですね。カメラが回っているときは、ちょっと自制するようにしていますけど」
誰とでも分け隔てなく話す。それも、一度しゃべり出したらなかなか止まらない。人懐こい久保のキャラクターは今月に入って、スペインのスポーツ紙「AS」でも紹介された。
「久保のキャラクターには、正直、私たちも驚かされた。加入した初日はとても物静かで、できるだけ早くなじめるように助けてあげなければと思うのが普通じゃないですか。
それが翌日になると、私たちに『たくさん話すのが大好きだから、みんなのことを早く知るためにおしゃべりがしたい』と言ってきた。彼は素晴らしい選手であり、とても魅力的なキャラクターの持ち主でもある。このチームでは本当に幸せそうにしていて、私たちに多くの喜びを与えてくれている」
ソシエダのチームメート、スペイン出身のアリツ・エルストンドの証言は、そのまま久保の特異なコミュニケーション能力を物語っている。瞬く間に新天地のチームメートたちに受け入れられ、いまでは本拠地を置くサン・セバスティアンの町全体から愛される存在になっているゆえんでもある。