1999年、若きイーロン・マスクの会社X.comと鬼才ピーター・ティールと天才コーダー、マックス・レヴチンの会社コンフィニティが、とある建物で偶然隣り同士に入居し、壮絶なバトルの末、1つの「奇跡的な会社」をつくったことを知っているだろうか? その驚くべき物語が書かれた全米ベストセラー『創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説』(ジミー・ソニ著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)がついに日本上陸。東浩紀氏が「自由とビジネスが両立した稀有な輝きが、ここにある」と評するなど注目の本書より、内容の一部を特別に公開する。

【バカとは違う】「頭のいい人の考え方」決定的な1つのコツPhoto: Adobe Stock

「メメント・モリ」とは何か?

 インターネット史上最も壮絶で異例な戦いの一つが始まった。(ごく近くに入居したイーロン・マスクの)X.comと(ピーター・ティールの)コンフィニティは何週間にもわたり、顧客獲得をめぐる死闘を繰り広げた。「どっちが早く資金を使い果たせるかを競っていたようなものだ」とイーロン・マスクは苦笑する。(中略)

 マスクはこの時期、強烈な全社メールを送った。件名はあたりさわりのない「競合に関する友好的なメモ」。受け取った人たちによると、本文にはたった1行、「やつらを殺せ。死ね。死ね。死ね」のようなことが書かれていたという。

「ただの冗談だってことはみんなわかっていた。だがイーロンはX.comができるだけ多くのユーザーを集めてリードすべく、寝ずに頑張っていた」とエンジニアのダグ・マクは言う。

 コンフィニティのマックス・レヴチンは、「メメント・モリ」の言葉とX.comのロゴが入ったバナーをオフィスに掲げた。「メメント・モリ」とは、「死を忘ることなかれ」という意味のラテン語の古い格言だ。本来は、人生で何が大切かを考えさせる言葉だが、レヴチンは死闘の相手を忘れるなという警句として、これを掲げた。だがバナーなど不要だったと考える人たちもいる。

「そんなものはなくても、いつだってあいつらのことだけを考えていた」とコンフィニティの初期メンバー、ルーク・ノセックは言う。

「頭のいい考え方」のコツとは?
――究極のネガティブ思考

 マスクはレヴチンとピーター・ティールの中に、めったに見かけないものを見出した──自分と同じくらい勝ちにこだわる姿勢だ。

 やつらは敵として不足がない、とマスクは思った。とくに、すばやくコードを配置(デプロイ)するレヴチンの手腕には目を見張った。「本当に感心した」とマスク。「僕も技術には自信があるほうだ。だから自分と張り合えるところを見て、これはリスペクトだなと」

 レヴチンの手腕はさておき、マスクは最後に勝つのはX.comだと信じて疑わなかった。X.comはコンフィニティより資金が潤沢で、必要とあらばさらに多くの資金を調達できた。既存企業から引き抜いた一流の人材を含む優秀なチームがいた。世界最高峰のVCセコイア・キャピタルの後ろ盾があり、メディアの寵児で、そしてマスクの見るところ、ずっといい名前を持っていた。(中略)

 ティールは、X.comがコンフィニティを脅かす存在になることをいち早く察知していた。

「ピーターはつねに物事に正面から立ち向かおうとする。自分が間違っていないかどうかを確かめたいんだ」とノセックは言う。「何がどうなったらうまくいかなくなるか、失敗するかを、いつも積極的に考えようとする。僕が知るどの起業家よりもずっと、ずっと積極的に

 X.comはカネにものをいわせてコンフィニティをつぶすことができると、ティールは判断した。「ピーターは賢明にもX.comが本物の脅威だと気づいた」とコンフィニティの取締役、ジョン・マロイも言う。

 そしてティールは強烈な負けず嫌いだった。「いい負け方なんかない。負けは負けだ」と、ティールは社員に言っていた。

(本原稿は、ジミー・ソニ著『創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説』からの抜粋です)