1999年、若きイーロン・マスクと天才ピーター・ティールが、とある建物で偶然隣り同士に入居し、1つの「奇跡的な会社」をつくったことを知っているだろうか? 最初はわずか数人から始まったその会社ペイパルで出会った者たちはやがて、スペースXやテスラのみならず、YouTube、リンクトインを創業するなど、シリコンバレーを席巻していく。なぜそんなことが可能になったのか。
その驚くべき物語が書かれた全米ベストセラー『創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説』(ジミー・ソニ著、櫻井祐子訳、ダイヤモンド社)がついに日本上陸。東浩紀氏が「自由とビジネスが両立した稀有な輝きが、ここにある」と評するなど注目の本書より、内容の一部を特別に公開する。

【クイズ】「頭がいい人、悪い人」が一瞬でわかるすごい質問Photo: Adobe Stock

「頭のよさ」を測る問題

(のちにペイパルの前身フィールドリンクを一緒に立ち上げる)マックス・レヴチンとピーター・ティールは、最初に出会ってから数週間、何度も会った。これらのミーティングを、レヴチンは「超オタク的デート」と呼んだ。

 パロアルトのプリンターズ・インク書店で会ったときは、頭の体操クイズを出し合って何時間も過ごした。「まず僕がクイズを出して、ピーターが解けるかどうかを試す。すると今度はピーターが僕にクイズを出す」

 ムードは和やかだったが、その根底にはのちのペイパル文化の原型となる競争心が燃えさかっていた。二人ともクイズ解きには自信があり、二人とも強烈な負けず嫌いだった。

 レヴチンはティールから最初のころに出されたクイズを覚えている。

整数には、約数の個数が奇数個のものと、偶数個のものがある。約数の個数が偶数個である、z未満の整数の個数はいくつか?(*1)

 レヴチンはクイズと格闘した。最初は難しく考えすぎてうっかり「部分集合の部分集合」を考えてしまったが、最後には正解にたどり着いた。余計なまわり道はしたが、それでもすぐに解いてティールを感心させた。

 次はレヴチンの反撃だ。

密度にムラがある2本のロープがある。ロープに火をつけると、燃える速さは違うが、完全に燃え尽きるまでにどちらも1時間かかる。2本のロープを使って正確に45分計るにはどうしたらいいか?(*2)

 ティールは正解した。

掘り下げすぎてもダメ

 真剣勝負は何時間も続いた。頭の体操クイズの次は数学クイズ、それから論理クイズを出し合った。レヴチンとティールはお互いのおかしな共通点に気づいた──二人は数学で気晴らしができる特殊な人種だった。「ピーターは技術系じゃない」とルーク・ノセックは言う。「でも彼もマックスも、つねに物事を理解しようとするという意味での“知識人”だ。楽しみながら知力の限界を試し合っていたよ」

 ティールとレヴチンの初期のこうしたやりとりには、のちのペイパルでの採用方法の片鱗が見られる。

「ロープ燃やし」のような問題は、ペイパルの採用面接でも出題された。

「一見ただのクイズのようで、実は基本的なコンピュータ科学の問題なんだ。一歩引いて問題を俯瞰して、『これはクイズだな、さっさと解かなくては』と気づかないといけない掘り下げすぎてもダメなんだ」

 レヴチンがのちに数学の博士号を持つ有望な候補者に面接でクイズを出したとき、候補者はすぐに答えを書き始め、ホワイトボードを計算で埋め尽くし、ガラス戸にまで書いた。

 レヴチンはその長く屈折したプロセスを見て、候補者を落とした──このプロセスが、ソフトウェアエンジニアとしての彼の未来を物語っている。正解にはたどり着くだろうが、時間がかかりすぎる。

謎解きの精神が浸透していた

 難解なクイズを入社試験で出すのは、ペイパルだけではない。多くのテック企業がクイズで候補者を苦しめている。また、ペイパル出身者が全員、この手法を望ましいと思っていたわけでもない。

「僕はクイズはそんなに得意じゃない。でも、問題解決は好きだ」とペイパルのエンジニア、エリック・クラインは言う。「クイズと問題は別物だ。ペイパルの面接ではクイズを使うことが多かったが、そのせいで問題解決が得意な人をふるい落としてしまったかもしれない」

 クラインは当時このやり方に「全面的に賛成」していたが、「歳を取ったいまは、あれが最適な採用方法ではなかったとわかる」と言う。

 エンジニアのサントッシュ・ジャナーダンは、その場でクイズを解かせる方法の利点と難点を指摘する。

「たまたま調子が悪かった人を落としてしまったかもしれない。でも、少なくともIQが高く、僕らと同じ考え方をする人を採用することはできた。つまり、本当に優れた人材を何人か逃した可能性はあるが、それでも入ってきた人は直感力に優れていた。似た者同士で集団思考(グループシンク)に陥る危険もあったが、いまから思えば、あれは少人数で何かを本当にすばやくやり遂げるチームをつくるのにはいい方法だったな」

 クイズが採用に役立ったかどうかはさておき、ペイパルと他社との違いは、謎解きの精神が企業文化にまで浸透していた点だ。

 あるUXデザイナーによれば、ペイパルのエンジニアリングチームは問題解決を愛していた。「美しい解決策を考えることに喜びを感じていた」。そうした喜びをかき立てるために、週刊の社内報は難問クイズを毎号掲載し、次の号で正解を発表して社員を一喜一憂させた。

[*1]答え:z未満の完全平方数の個数をz-1から引いた数。
[*2]答え:1本目のロープの両端と、2本目のロープの片端に、同時に火をつける。1本目のロープは30分後に燃え尽きる。燃え尽きたその瞬間に、2本目のロープの残りの片端に火をつければ、2本目のロープが燃え尽きるのは、最初からちょうど45分後である。

(本原稿は、ジミー・ソニ著『創始者たち──イーロン・マスク、ピーター・ティールと世界一のリスクテイカーたちの薄氷の伝説』からの抜粋です)