院長と同じ名門大出身なことで
処分を免れる
【エピソード1 非通知拒否が運命を分けた、心臓外科医A先生】
A先生も竹田くん同様に、壊滅的に手術センスがなかったが、手術への意欲は高かった。
一般的には「4本で3~5時間程度」の心臓バイパス手術に、「2本で8~10時間」を費やした挙げ句、手術2週間後に心臓の造影検査をしてみたところすでにバイパスが詰まっていた。
別の患者では、手術時間は15時間超で出血量5リットルを超えており、長時間の虚血で患者の脳にはダメージが残った。手術後も寝たきり状態が数カ月続いたが、バイパスはつながっていたので「手術は成功した」「目覚めないのは麻酔のミス」と主張し、患者は2カ月後に亡くなった。
一連の手術結果は、病院安全委員会での議題に上がったが、A先生は院長と同じ名門医大出身者でもあったためか、厳しい処分には至らなかった。
やがて、手術の前日になると患者の携帯に非通知設定で「A先生ヤバいよ、あなた死ぬよ」という匿名警告電話がかかってくるようになった。内容は具体的で、病院関係者がカルテの連絡先を見てかけたとしか思えず、ビビった患者が前日に夜逃げするケースが相次いだ。しかしながら、携帯電話が「非通知拒否」設定だった患者には電話がつながらず、そのまま手術室から生還しなかった患者もいたらしい。
「全力を尽くしたのですが…」
眉目秀麗な容姿で患者家族を幻惑し訴訟回避
【エピソード2 メスを持たなければイケメン、消化器外科B先生】
B先生は名門医大出身、長身で穏やかな話しぶりのため、外来では大人気だったが、壊滅的に手術センスがなかった。
大腸がんなどの基本的な手術においても2~3リットルの出血を引き起こし、さらにパニックになって止血のために周囲の血管を適当に結紮(けっさつ。縛って結ぶこと)するため、平静に戻った時には肝臓への主要血管が結紮されて肝臓への血流が激減しており、患者は長期間の肝不全に苦しんだ末に亡くなった。
しかしながら、「手術は成功したけど、肝炎で亡くなった」と、彼の心は折れなかった。決して手術を諦めず、次に同様な患者が外来に現れた時には「大丈夫、僕が治します!」と力強く宣言するのだった。
きらびやかな学歴と外来でのスマートな身のこなしに幻惑されて、手術に同意する患者は後を絶たなかった。通常の3倍の手術時間をかけた挙句に夜中に患者が亡くなったケースでも、憂いを帯びた声で「全力を尽くしたのですが…」と涙ぐむと、残された家族も納得してしまうせいか、医療訴訟に発展した事例はなかった。
手術件数そのものは多く、さらに後遺症の治療で高額薬品を大量使用し、病院経営には貢献していたので、経営陣には問題視されていなかった。看護師の間では「メスを持たなければイケメンなのに」と惜しまれる存在だった。