既得権益にしがみつき、下の世代から搾取する“おじいちゃん医師”たち、コスパ重視で同僚たちから搾取する“ゆるふわ医師”たち……。医療現場を疲弊させている“戦犯”は一体誰なのか。特集『コロナで激変!医師・最新序列』(全12回)の#2では、「ドクターX~外科医・大門未知子~」等の医療ドラマの制作協力でも知られたフリーランス麻酔科医、筒井冨美氏が医療界が抱える構造問題の本質に迫りつつ、アフターコロナの医師像を占う。今回はその後編をお届けする。
1966年生まれ。医学博士。地方の非医師家庭に生まれ、某国立大学を卒業。米国留学、医大講師を経て、2007年より「特定の職場を持たないフリーランス医師」に転身。本業の傍ら、12年から「ドクターX~外科医・大門未知子~」など医療ドラマへの制作協力や執筆活動も行う。近著に『女医問題ぶった斬り!女性減点入試の真犯人』(光文社新書)。
“白い巨塔”大学医局の崩壊
昭和時代後期、1965年初版の小説『白い巨塔』のように、医学部の卒業生は、医師免許取得後、慣習的に母校の付属病院へ就職し、医大の教授は若手医師の人事権を握る絶対君主として医学界に君臨していた。
しかし、2003年に始まった医師臨床研修マッチング制度(新研修医制度)が始まり、市中病院も初期研修先として選択できるようになったことで、その地位は揺らぎ始めた。
「大学医局による教育は高度専門医療ばかりで、専門外を診られない」ということの反省として、医師免許取得直後の研修医は「内科4カ月→小児科2カ月→精神科1カ月……」など、さまざまな科をローテーションしながら2年間の研修を受けることが必須化され、「総合的な診療能力を高める」とされたが、それは同時に、「強過ぎる教授の権力を制限するため」ともうわさされていた。
この新研修医制度により、若手医師は封建的な大学病院を嫌って、自由に都市部の大病院に就職するようになった。そして大学医局は機能不全に陥り、それまで大学医局が唯一の医師の供給源だった地方病院では深刻な医師不足に苦しむようになるなど、地域医療の崩壊が本格化した。
同時に診療科のパワーバランスにも変化が表れ始めた。「マイナー科」と低く見られていた眼科・皮膚科・耳鼻科・精神科などは、「ラクで開業しやすい」と人気になった一方、かつては花形とされた外科や、産婦人科のような多忙な科は敬遠されるようになり、若手が集まらない科ではマンパワー不足による医師の過重労働が深刻化した。
新研修医制度は、若い医師を封建的な大学医局から解き放ったが、同時に今日の医療政策の大きな課題である「地域や診療科による医師の偏在」を拡大させた“元凶”ともいえるだろう。
医師偏在解消を狙って開始、なのに逆に偏在を加速させた新専門医制度の罪
こうした医師の偏在を解消しようと新制度が始まった。「専門医の質の向上」「国民に分かりやすい専門医」を目的とし、14年に発足した日本専門医機構によって、新たな専門医制度の構築が進んだのだ。新専門医制度は、2年間の初期研修を終えた医師免許取得後3年目の医師は、専門医機構の定める「内科」「眼科」など19の診療科の一つを選んで登録し、「専攻医」となって3~5年間の専門科研修を受けるというもの。さらに、「医師の地域や診療科の偏在に配慮」「過度の偏在があれば調整」とうたい、偏在対策にも大きな期待が集まった。
このとき、この制度改革の目玉として新設されたのが「総合診療科」だ。総合診療医は、複数の科にわたる病気を総合的に診療できるとされ、医師不足に苦しむ地方の医療の“救世主”となるべく、「全医師の3~4割を目指す」と計画された。眼科や麻酔科の専門医コースは、日本眼科学会や日本麻酔科学会など各学会が設定したが、総合診療医コースは専門医機構の直轄とされるほどの力の入れようだった。
実は、「専門医制度を活用した地方医師派遣」に特に熱心だったのが、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議の副座長であった尾身茂氏である。尾身氏は自治医科大学の1期生かつ教授経験者でもあり、地域医療機能推進機構(JCHO:日本中に点在する57の病院群)の理事長という立場でもある。