「長野立てこもり事件」で殉職した警察官2人はなぜ銃を抜かなかったのか警察官が銃撃されたとみられる現場付近=27日午後、長野県中野市 Photo:JIJI

長野県中野市で5月25日、市議会議長の長男、青木政憲容疑者(31)=殺人容疑で逮捕・送検=が警察官2人を含む4人を殺害、猟銃を持って約12時間にわたり自宅に立てこもる事件が発生した。散歩していた女性2人は刃物で刺され死亡。警察官2人は「男が女性を刺した」との110番を受けて急行し、応戦する間もなく被弾したとみられる。殉職した警察官2人はなぜ拳銃を抜かなかったのか。(事件ジャーナリスト 戸田一法)

 本稿に入る前に、凄惨(せいさん)な事件で命を落とした4人とご遺族に心から哀悼の意を表したい。

パトカーに発砲した容疑者は
「笑っているように見えた」

 事件は5月25日午後4時25分頃、中野市江部で発生。「男が女性を刺した」と110番があり、現場に駆け付けた警察官2人が乗るパトカーに青木容疑者が発砲。青木正道市議会議長(57)=26日議員辞職=と母親、おばと4人で暮らす自宅に立てこもった。

 中野市は防災無線で事件を伝えると同時に、不要不急の外出を避けるよう要請。午後6時過ぎ、村上幸枝さん(66)の死亡が確認され、その後、中野署地域課の玉井良樹警部補(46)と池内卓夫巡査部長(61)の死亡も確認された。

 翌26日午前4時37分、青木容疑者が投降し、身柄が確保された。その後、近くに倒れていた竹内靖子さん(70)の死亡が確認され、長野県警は午前8時21分、池内巡査部長に対する殺人容疑で青木容疑者を逮捕した。

 全国紙社会部デスクによると、青木容疑者は犯行当時、迷彩服に帽子、サングラス、マスクを着用。農作業をしていた男性(72)が、青木容疑者が女性を追いかけているのを目撃していた。「おじさん、助けて」と叫ぶ女性の背後から左腕をつかみ、長さ30センチほどのサバイバルナイフを背中に突き立て、さらにあおむけに倒れた女性の胸を刺したという。

 男性が「なぜ、そんなことをするんだ」と声を荒らげると、青木容疑者は無表情で「殺したいから殺した」と平然と言い放ち、腰のホルダーにナイフを納めて歩き去った。男性はその場から約150メートル離れた自宅に駆け込み110番した。

 約10分後、玉井警部補と池内巡査部長が乗ったパトカーが到着し、男性が現場近くに誘導。停車しかけたところに青木容疑者が近寄り、運転席の窓から至近距離で猟銃を発射した。男性は「青木容疑者は笑っているように見えた」と話していたという。