「結論から話せ」はビジネスの基本として知られていますが、注意が必要です
すべてのケースで結論から話してしまうと、時に大きなトラブルになることも…。
では、どのような場合は「結論から話してはいけない」のでしょうか?
上司と話をするとき、部下や後輩などメンバーと話をするとき…。
話す相手によってやり方を変えるべきなのです。
30代で経営者歴10年以上、『20代が仕事で大切にしたいこと』著者の飯塚勇太氏に、「上司向け」と「部下向け」の話し方のコツについて伺いました。
(編集/和田史子)

書籍『20代が仕事で大切にしたいこと』の著者が教える、「上司への話し方」と「部下への話し方」とはPhoto: Adobe Stock

上司には「結論」から話す

「ビジネスシーンでは、最初に結論を話すのがよい」と一般的にはいわれますが、現実には必ずしもそうとは限りません

上司に対しては確かに、結論から話したほうがいいです。
忙しい上司に対しては、伝えたいポイントを明確にして、
「結論から申しますと○○です。その根拠は2つあります。」
といった具合に、まず結論を一文で簡潔に伝える
その先の説明が必要かどうかは、上司が判断します。
メールで伝えるときも、結論の後に箇条書きで根拠を伝えるなどしましょう。

「根拠は2つあります」で、いったん「間(ま)」をとりましょう
結論を聞いた時点で「進めてOK!」と即答する上司もいるはず。
詳しく聞きたければ「なるほど、続けて」と話を促すでしょう。

上司には「結論」から話すPhoto: Adobe Stock

メンバーには「過程」から話す

しかし私は、メンバーに対しては、あえて結論から話さず「過程」を丁寧に伝えたほうがいい考えています。
メンバーに対して「結論」から話してしまうと、意思決定の「文脈」が十分に伝わらないおそれがあるからです。

あなたがリーダーを務めるチームに、1億円という売上目標が課せられたとします。
会社としては、業界での認知度を高めるために、来期は最終利益を度外視してでも、売上を伸ばしたい。これが結果的に、2期先、3期先に大きな最終利益を出すことにつながる。
そのような意思決定が行われ、あなたの部署にも、昨期より大きな1億円という売上目標が降ってきたのでした。
メンバーは自分を含めて5人。単純計算で、メンバー1人あたり2000万円が売上のノルマとなります。

メンバーに対し、これを結論から話すとどうなるでしょうか。
「チームの来期の目標は1億円。そのためには1人あたり2000万円の売上を立ててほしい。なぜかというと……」
あなたがまず結論を伝えた後、その結論に至る「文脈」をメンバーに話そうとしても、メンバーはきっと上の空でしょう。

「えっ、チームで来期目標1億円?」
「1人あたりの売上目標2000万円!?」

この「1億円」と「2000万円」の数字のインパクトが大きすぎるため、その後の話が頭に入ってこないのです。

数字のインパクトが大きすぎて、意思決定の「文脈」がメンバーに伝わらないPhoto: Adobe Stock

意思決定の「文脈」がメンバーに伝わらないのは恐ろしいことです。
メンバーによっては、「1人あたりの売上目標2000万円」を絶対のものとしてとらえ、達成できるかどうかギリギリのところに追い詰められたときに「どんな手を使ってでも達成しよう」と、コンプライアンスに触れる手段を使う人も出てきかねないからです。

仮に、メンバーの1人がコンプライアンスに触れる手段を使って「部署として来期目標1億円」「1人あたりの売上目標2000万円」を達成したとします。しかし、のちにメンバーの使った手法が大きなトラブルとなって露呈し、社会に知れ渡る大問題となったらどうなるでしょうか。「業界での認知度を高めるために、来期は最終利益を度外視してでも、売上を伸ばしたい」と考えていた会社の方針とは真逆の方向に進むことになります(違った形で認知はされるかもしれませんが……)。

売上目標を達成したのに、その売上目標を課した真の目的を果たせない。これでは本末転倒です。だからこそ、メンバーに対しては「結論」よりも「過程」を先に話し、しっかりと共有するように努めるのです。

「妥協点」だけはしっかり握っておく

ギリギリのところで、売上目標を達成できないかもしれない。
ここで「何を妥協するか」が大事なポイントです。

もしもメンバーが、売上目標を「絶対的なもの」として考えていると、売上目標を達成できるかどうかのギリギリのところで「ほかの要素をおろそかにしてでも、売上目標を達成しなければ」と暴走しかねません。
先に述べたように、「目標を達成したのに、会社としてはうれしくない状況に陥る」可能性も出てきます。

一方、「高い売上目標を掲げるのは、業界での認知度を高めるためである」という文脈をメンバーと共有できていれば、メンバーは「会社として、社会的な信用を失うのは絶対に避けたい」と認識してくれます。

「危ない橋を渡れば、売上目標は達成できるかもしれない。しかし、コンプライアンスは絶対に守らなければならない」と、たとえ売上目標を妥協してでも会社にダメージを与えかねない行動を自制してくれるでしょう。

部下と文脈を共有できていると齟齬が起こりにくいPhoto: Adobe Stock

文脈を共有することの大切さ

文脈を共有することで優先順位がわかります
「何が一番大事か」「何を妥協してもいいか」も共有でき、メンバーが間違った行動を起こすおそれがなくなるのです。

自分がメンバーの立場であり、リーダーからの指示が「結論」のみで文脈も意図も見えない場合はどうすればいいでしょうか。

自分なりに「文脈はこうだろう」と仮説を立てて、リーダーに質問しましょう。

「これは○○のためにおこなう、という理解で合っていますでしょうか」
などとリーダーに確認するとよいでしょう。

上司には「結論」から、メンバーには「過程」から。

「最初に結論を話すのがよい」という固定観念に縛られていると、大きなトラブルに巻き込まれる可能性もあるのです。

(飯塚勇太著『20代が仕事で大切にしたいこと』から一部を抜粋・改変しています)

飯塚勇太(いいづか・ゆうた)
株式会社サイバーエージェント専務執行役員
1990年神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。
2011年、サイバーエージェントの内定者時代に、友人らと開発・運営した写真を1日1枚投稿し共有するスマートフォンアプリ「My365」を立ち上げ、21歳で株式会社シロク設立と同時に代表取締役社長に就任(現任)。2014年、当時最年少の24歳でサイバーエージェント執行役員に就任。2018年株式会社CAM代表取締役、2020年株式会社タップル代表取締役に就任(現任)。2020年サイバーエージェント専務執行役員に就任(現任)。
『20代が仕事で大切にしたいこと』が初の著書となる。