江戸時代の男も「つるすべ肌」を目指した?平和な時代に“男性脱毛”が増える理由写真はイメージです Photo:PIXTA

近年、高まりを見せている脱毛志向。それに応じて、さまざまなトラブルも起きているが、こうした脱毛志向はなぜ高まり、人々の心理をいかに変えたのか。『装いの心理学 整え飾るこころと行動』(北大路書房)の著者で東京未来大学准教授の鈴木公啓氏に聞いた。(清談社 沼澤典史)

日本の女性はいつから
脇毛をそり始めたのか

 脱毛への関心がこれまで以上に高まっている。女性はもとより、男性も脱毛志向は高く、施術を希望する人は増加中だ。

 実際、医療脱毛専門院『リゼクリニック』では、患者数が2015年から2020年までの5年間で、女性は4.7倍、男性は11.3倍に増加したという。

 鈴木氏は、このような脱毛への関心の高まりはコロナ禍を経て、現在も続いていると話す。

「近年の脱毛意識の高まりの背景の一つに、広告の増加があると考えられます。もちろん、広告を増やしたからといって関心を持つ人が必ずしも増えるとは限りません。もともと脱毛への興味関心は潜在的にあり、広告によって人々の脱毛意識が喚起されたのだと考えられます。また、コロナ禍ではオンラインの会議や授業が増え、自分の顔を見る機会が増えました。それによって、より身だしなみなど自分の見た目への関心が高まったのだと思います。特に男性はひげのそり残しなどが気になるようになり、脱毛への関心が高まったとも考えられます。他にもK-POPアイドルの影響もあるようで、K-POPファンのパートナーから脱毛を勧められたりするケースもあるようです」

 このようななかでテレワークや飲み会の自粛などもあり、以前より空き時間ができた。人々が脱毛施術に踏み切るには絶好のタイミングだったのだ。他にも、自宅やセルフで行える脱毛機器の発達、インフルエンサーや芸能人による脱毛体験の発信なども、脱毛のハードルを下げた要因だという。

 そもそも脱毛の歴史はかなり古い。そして、脱毛は文化の変化とともにあったと鈴木氏は話す。

「脱毛(もしくは除毛)は紀元前には始まっていたとされ、例えば古代エジプトでは、ファラオ王なども除毛していたと言われています。日本でも平安時代には貴族の女性らが脱毛を行っていたようですし、江戸時代では男性も脱毛していたようです。近代以降は、洋装化などのファッションの変化で肌の露出が増えるに従い、見えている毛が忌避されるようになり、女性の間で脱毛がさらに一般化していきます。ポーラ文化研究所によれば、日本の女性において脇毛をそることが普及し始めたのは、昭和20年代終盤ということですが、戦後から次第に脱毛が普及し、その対象となる箇所も次第に多様になっていったようです」

平和な時代に高まる
男性のツルツル志向

 一方、これまで男性は脱毛と無関係であったかと言われればそうではない。程度の差はあるが、歴史上、現在と似たような時期はあったという。

「日本の歴史をみても、争いが頻繁にある時代は毛深さなど男らしさが求められ、平和な時代はツルツルとした男らしさを感じにくい見た目が好まれるという傾向があります。例えば、男性の場合、戦国時代の武将はひげをたくわえる傾向がありましたが、江戸時代になるとひげはそるようになります。そして、明治に富国強兵が叫ばれるとまたひげを生やす傾向が強まったのです。こうした歴史から、現在の脱毛志向(特に男性)は、実際に日本が平和かどうかは別として、人々に平和だという認識が広まっていることの表れであるとも考えられます」

 こうした変遷をたどり、現在の脱毛シーンに至っているわけだが、以前と比べ、人々の脱毛への意識はどのように変わってきたのだろうか。