「性的指向及び性同一性の多様性に関する国民の理解の増進に関する法律案」、いわゆるLGBT理解増進法案の与党案が5月18日、国会に提出された。立憲民主党はこの与党案の内容は不十分であるとして反発しており、同日対案を提出した。全会一致による成立を目指していた同法案は、国会での審議の上、採決による成立を探る方向となったようだ。その後、日本維新の会及び国民民主党も独自案を提出。これによって3つの法案を同時に審議することとなった。その後、与党と日本維新の会及び国民民主党との間で修正協議が行われ、本稿執筆時点でその修正案が衆議院内閣委員会で可決された。しかし、そもそもこの法案は今国会で成立させる必要はあるのだろうか?(政策コンサルタント 室伏謙一)
「当事者」からも
懸念や反対の声
自民党内での議論では、反対や慎重論が多く、この法案を審議した政務調査会の部会でも、反対が賛成を上回っていたようだ。そうであれば、党内議論を重んじる自民党としてはより慎重な進め方をするのかと思いきや、賛成少数にもかかわらず部会長一任を強引に決め、その後まともな議論をさせずに党の案として決定してしまった。
自民党で反対や慎重と聞けば、LGBTに対する偏見や否定論のように思い込んでしまう方もいるかもしれないが、そうではないというか、法案の内容を踏まえた弊害への懸念や、いわゆる「当事者」の人たちからの懸念や反対の声を踏まえた意見であった。
例えば、性別不合当事者の会、白百合の会、平等社会実現の会及び女性スペースを守る会の関係4団体は、去る3月16日、「『性自認』に基づく差別解消法案・理解増進法案に関する共同要請書」を岸田文雄首相および各党党首宛てに提出している。同要請書は全7ページにわたり、要請の趣旨として次のものを挙げている。(要請書記載のものをそのまま引用する)。
1 gender identity:性自認ないし性同一性(以下「性自認」という。)に関する差別解消法または理解増進法を作成し審議するにあたっては、拙速に提出することなく、女性の権利法益との衝突、公平性の観点からの研究・検討をし、先行した諸外国の法制度と運用実態、混乱などの問題、またその後の制度変更などもしっかりと調査し、国民的な議論の上で進めて下さい。
2 仮に法令化するのであれば、生物学的理由から女性を保護する諸制度・施設・女性スペース、女子スポーツ等々において、元々は男性だが自身を女性と認識する方を「女性として遇せよ」という趣旨ではないことを明確にする、また別途女性スペースや女子スポーツに関する法律を制定するよう求めます。
3 性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律のうち「手術要件」は削除せず、男性器ある法的女性が出現しないようにして下さい。
また、同要請書の中で、「いわゆるLGBT法連合会に集う方々の団体だけが、性的少数者の集まりではなく、その代表でもありません。多くの性的少数者、まして社会に埋没しているトランス女性・トランス男性、もとより法的性別を変更した者は団体に集うことなく、法律が無くてもいわゆるヘイト事件まではまずない日本において、日々生活しています」として、「声の大きい」特定の団体等の意見を踏まえた法制化に警鐘を鳴らしている。