3月30日、G7サミットにおける議論促進と各国首脳への政策提言を目的として、LGBT支援団体が「Pride7サミット2023」を開催した3月30日、G7サミットにおける議論促進と各国首脳への政策提言を目的として、LGBT支援団体が「Pride7サミット2023」を開催した Photo:JIJI

5月19日に広島で開催されるG7サミット(先進7カ国首脳会議)が迫り、LGBT理解増進法案の議論が本格化している。「心は女性」という男性が女湯に入ってくるのではないかという指摘もあるが、問題はどこにあるのか。ジャーナリストの池上彰氏と増田ユリヤ氏が語った。(ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子)

LGBT理解増進法案は
妥協の産物といわれても仕方ない

池上 今国会で「LGBT理解増進法案」が可決するかどうか、注目されていますね。

増田 5月19日に広島で開催されるG7サミット(先進7カ国首脳会議)までに成立させるべきだ、との声もあります。G7の中で同性婚やそれに準じる制度がないのは日本だけ。「議長国としてそれでいいのか」という声が、法案可決への後押しになっています。

 経団連の十倉雅和会長も、「世界では理解増進ではなく差別を禁じ、同性婚を認める流れにある」と指摘。「理解増進の法案提出すら議論をしている段階なのはいかがなものか」とくぎを刺しています。

池上 この法案は2021年にも提出が検討されたのですが、自民党の一部から「差別は許されない」との文言に「待った」がかかって見送られた経緯があります。

増田 本来、法がなくても、LGBT当事者への理解が必要なことに変わりはありません。しかし法案は反対派をなだめるために、「差別禁止法案」ではなく「理解増進法案」としたのでしょう。

池上 妥協の産物、といわれても仕方ないですよね。2月には岸田文雄首相の秘書官の一人がオフレコ取材で同性愛者について「見るのも嫌だ。隣に住んでいたら嫌だ。人権や価値観は尊重するが、認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言して更迭されました。

増田 あきれてしまいます。「マイノリティーの人たちが生きやすい社会は、他の人にとってもより生きやすい社会である」という発想から始めなければ、マイノリティーへの理解や社会制度の構築はうまくいきません。

トイレの全個室化は
マイノリティーの人たちも救う

池上 例えば小便器を置かず、全てを個室にしている男子トイレを採用する小学校が増えていると聞きます。男子の場合、「大の方に入っているとからかわれる」ので、全個室化は男子全員にとっての使いやすさにつながると同時に、結果的にマイノリティーの人たちをも救うことになりますよね。

増田 その発想から、米国ニューヨークなどでもユニバーサルトイレ、つまり男女別ではなく、誰でも使えるトイレが増えています。

池上 一方、保守派を中心に、「心は女性だと言い張る男性が女子トイレや女湯に入ってくるようになり、犯罪の温床になる」などと法案への反対論があります。