京都産山田錦の純米酒で地域振興を願う、洛中の酒蔵

新日本酒紀行「福実鳥」蔵元の佐々木晃さん(左)と蔵人で酒蔵ツーリズム担当の疋田泰秀さん Photo by Yohko Yamamoto

 京都府は日本酒生産量第2位を誇る酒どころ。主産地は大手蔵が集まる京都市伏見だが、室町時代までは京都市中心部の洛中に300を超える酒蔵があった。移転や統廃合で減少し、現在、伏見を除く京都酒造組合には3蔵が属し、洛中には佐々木酒造が残るのみ。蔵は二条城の北側、聚楽第(じゆらくだい)の跡地南端にあり、佐々木晃さんで4代目。「上の兄は、飲んでなくなる酒は嫌だと建築家に、2番目の兄は大学の農学部へ進んだものの、突然俳優になり……」、3人兄弟の末っ子が会社を辞めて家業を継いだ。

 地域と共にある酒造りを目指し、京都府亀岡の農家に山田錦の栽培を依頼。大吟醸や純米大吟醸を醸していたが、コロナ禍で飲食店が休業し、酒が売れず米が余った。だが契約をやめれば農家が困り、山田錦の入手が困難になる。そこで、2021年に山田錦で純米酒「福実鳥(ふくみどり)」を醸し、クラウドファンディングで窮状を訴えた。ラベルには田んぼに飛来するコウノトリとタゲリを入れ、環境保全も表すと、多くの支援者が集まり、味の評判も良く定番に決定。杜氏の田中豊人さんは、酒販店の息子で修業のため18歳で入社。営業を経て蔵人になり、能登杜氏の技能を学んで13年前42歳で杜氏に。全国新酒鑑評会で金賞を7回、海外の日本酒コンテストでの上位入賞も果たし、才能が開花。今、晃さんが力を注ぐのが、酒蔵ツーリズムだ。蔵見学に季節酒の試飲、地元西陣の魅力も発信し、国内外の客を受け入れ、洛中の酒蔵ができることを模索する。