唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント10万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は著者がダイヤモンド・オンラインに書き下ろした原稿をお届けする。
酒の強さは何によって決まるのか?
「お酒に強い人と弱い人がいる」という事実を私たちは当然のように知っている。
年末年始のこの時期、家族や友人、職場の仲間と酒を飲み交わす人は多いと思うが、同じ量を飲んでいても、「どのくらい酔うか」は人によって違う。
少量のビールで顔が真っ赤になる人もいれば、ビールにワイン、日本酒と浴びるように飲酒して平気な人もいる。
一体、これは何によって決まるのだろうか?
医学を学ぶと、その答えの一端を知ることができる。アルコールを代謝する効率の差である。
アルコール代謝の仕組み
人体には、アルコールを分解、代謝する仕組みが備わっている。
体に取り込まれたアルコールは、胃や小腸から吸収され、肝臓で分解される。
まずアルコールは、アルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドに変化する。
アセトアルデヒドは「二日酔い」の原因物質で、体に蓄積すると吐き気や頭痛などの不快な症状を引き起こす。
続いてアセトアルデヒドは、アセトアルデヒド脱水素酵素によって無害な酢酸に変化する。
最終的に、酢酸は二酸化炭素と水に分解され、体から排出される。
こうして私たちは、ひどい二日酔いに苦しんだ日には「二度と飲むまい」といつも決意するのだが、結局数日後にはまた楽しく酒を飲むのである。
酒の弱い人と強い人
さて、実はアセトアルデヒドを分解するアセトアルデヒド脱水素酵素には、1型(ALDH1)と2型(ALDH2)の2つのタイプがある。
2型の働きの強さは、遺伝子のタイプによって生まれつき決まっている。遺伝子は両親から引き継いだものだからだ。
このALDH2の働きが弱い、またはない(低活性型または不活性型)人は、アセトアルデヒドが体に蓄積しやすく、不快な症状を呈しやすい。
アセトアルデヒドを効率的に分解できないためだ。このタイプが一般に「お酒が弱い人」とみなされている。
「お酒に弱い人でも訓練すれば強くなる」と考える人がいるが、それは間違いである。
遺伝子で決まった性質が訓練で変化することはないからだ。
多少の慣れによって症状が軽くなることはあっても、健康リスクは変わらない。
飲めない人に無理に飲ませたり、飲めない人が付き合いで努力して飲もうとしたりするのは当然ながら禁物だ。
正しい医学知識のもとで、適度な飲酒を心がけるべきなのである。
(※本原稿は『すばらしい人体』の著者山本健人氏による書き下ろしです)