吾妻山の麓で地域を味方に高評価を得る、
新たな山形の良酒
雄大な吾妻連峰の麓、置賜(おきたま)盆地の北端の南陽市はブドウ栽培が盛ん。ワイナリーは6社あるが、日本酒の蔵は東の麓酒造ただ一つだ。
1896年に遠藤栄次さんが造り酒屋を買って創業し、1970年に孫の孝蔵さんが継いだ。蔵の最古参の新藤栄一さんは元ブドウ農家。農閑期の手伝いが、手腕を買われて役員に。新藤さんは消費が低迷する中、季節雇用の杜氏の限界も感じていた。
そこに現れたのが、全国新酒鑑評会で10年連続金賞を受賞した実力派の神理(じんまさし)杜氏だ。前の蔵を辞め、県外も視野に入れていた神さんを、当時、山形県工業技術センターの酒類研究科長だった小関敏彦さんが「神杜氏は山形の宝。県外に出してはならぬ」と、この蔵の杜氏に推薦した。
2009年、高齢の孝蔵さんに、出羽桜酒造社長の仲野益美さんが業務協力を申し出て体制づくりを担った。酒質は新藤さんと神さんに一任。2人は新ブランド「天弓(てんきゅう)」を、東北芸術工科大学の学生と共同開発。別の入門酒も企画し、何℃でも何杯でもOKの「つや姫なんどでも」が完成して話題になる。山形県が特許を取得したマロラクティック発酵技術の甘酸っぱい酒は、近所の熊野大社の幸せ伝説から「三羽のうさぎ」と命名し、500mlで商品化。
その後、17年に孝蔵さんが89歳で逝去するが、後継者不在で仲野さんが代表を兼任。今年、酒米の雪女神で醸した純米大吟醸酒が、国内外四つの鑑評会で最高位を受賞。輸出も好調だ。
地域を味方に付けた、新たな山形の酒が高評価を得る。
●東の麓酒造・山形県南陽市宮内2557●代表銘柄:大吟醸 東の麓、純米大吟醸 三羽のうさぎ、純米吟醸 つや姫なんどでも、純米吟醸 山の形●杜氏:神 理●主要な米の品種:出羽燦々、出羽の里、雪女神