6月は「住民税の季節」だ。今回は以前から温めていた住民税に関する「三つの落とし穴」について前後編2回に分けてお伝えしたい。前編では、住民税によって思わぬ手取り収入ダウンに見舞われてしまう恐れと、税金の控除で大きな損をしかねないリスクの二つの落とし穴について解説した。後編の本記事では、著名エコノミストがお勧めし、インターネットの記事でも「お得」と紹介されるようになった手法が、実は大きな落とし穴だということをお伝えしたい。(ファイナンシャルプランナー〈CFP〉、生活設計塾クルー取締役 深田晶恵)
>>前編『6月のうちに伝えたい「住民税の落とし穴」、思わぬ手取りダウンや控除で損も』から読む
住民税の落とし穴(3)
住民税非課税世帯狙いで年金額を減らして後悔
住民税に関する三つの落とし穴、後編の本記事でお伝えする最後の三つ目は、「公的年金を繰り上げ受給し、年金額を減らして住民税非課税世帯を狙う落とし穴」を解説したい。
65歳で受給が始まる公的年金は、65歳より早く受け取る(繰り上げ)と年金額は減り、遅くする(繰り下げ)と年金額が増える。
年金額は、繰り上げをすると1カ月につき0.4%減り、繰り下げをすると1カ月につき0.7%増える。年金額が増えるのは「有力な選択肢」と考える専門家は少なくない(私は増えるメリットだけでなく、注意点もよく考慮した上で検討しようと言っている派である)。
一方、早めて受け取る「繰り上げ」受給を勧める専門家はまずいない。その理由は、一度繰り上げると途中で変更できず、減額された年金を生涯受け取ることになるからだ。減額された年金が生涯にわたって固定されることは、長生きしたときのリスクを高める。
ところが、ある著名なエコノミストが「繰り上げ受給して年金額を減らし、住民税非課税世帯になると、介護保険料や医療費の負担が少なくなるメリットがある」と、「繰り上げ受給」を積極的に勧めている。
その方がご自身の書籍やコラム連載などで頻繁に推奨している影響なのか、ネット上では「繰り上げ受給で住民税非課税世帯を狙え」といった記事をよく見かけるようになった。
老後のお金について個別相談を受け、年金の手取り計算をライフワークとしているFP(ファイナンシャルプランナー)として断言しよう。住民税非課税世帯を狙って年金を繰り上げすることは絶対にお勧めしない。間違いなく落とし穴なのである。その理由をお伝えしたい。