ポートフォリオを構成する事業単位(SBU)をどのように定めればよいのか? 多くの企業では所与の条件として定められているため、改めて考える機会がないかもしれない。ここで改めて、グループ経営戦略書の決定版『全社戦略』より該当箇所を紹介しよう。
全社ポートフォリオ分析で最初に行わなくてはならないのが、ポートフォリオを構成する単位の定義である。事業別に組織されている企業にとって、この答えは明白である。事業という単位は、企業ポートフォリオの運営と親和性が高いからだ。一方、規模が大きく、多様な部門や機能、地域別の組織を抱える企業の場合、ポートフォリオ単位の定義は難しくなる。
戦略的事業単位(SBU:Strategic Business Unit)の最適な定義について、ある程度の時間をかけて検討する価値があることは、過去の事例も示している。既存の組織単位を出発点にするのも一案だろうが、大切なのは、本社部門の経営陣がその単位に首尾一貫した戦略目標と財務目標を定め、それに従って資源を配分することができるようにポートフォリオ全体を細分化することである。
多くの企業では、適切なSBUとしてのレベルは、組織における第1階層よりも下に置かれてしまっている。ドイツの化学品・医薬品のコングロマリットであるバイエルを例に挙げてみよう。同社は長年にわたり、企業活動をヘルスケア、クロップサイエンス、マテリアルサイエンスという3つのサブグループに分けていた。そのサブグループは、さらに複数の事業単位でそれぞれ構成されていた。
例えば、ヘルスケア・サブグループは、医薬品、糖尿病薬、診断薬・診断装置、コンシューマーヘルスといった事業単位で構成されているといった具合である。サブグループは高い独立性をもってこれらの事業単位を管理していたが、グループレベルで行われるポートフォリオ・マネジメントの事業単位は20を超えていた。別の例では、「組織は戦略に従う」というアルフレッド・チャンドラーの理論に則り、全社ポートフォリオを分析した後で組織を編成している企業もある。
世界各地の大企業を対象とした全社ポートフォリオ・マネジメントの実務に関する最近の調査研究(Pidun et al. 2011)によると、7割の企業が製品ラインに基づいてSBUを設定していると回答している。一方、会社別は38%、地域別は31%、顧客別は22%である。調査に参加した企業間では、ポートフォリオで管理しているSBUの数の中央値は9個であり、16以上のSBUを管理していると回答した企業は4分の1に留まった。30年前の研究(Haspeslagh 1982)ではSBUの平均値が30個であったことと比較すると、多くの企業が今日ポートフォリオ内の中核事業に注力し、非中核事業を売却すべきというプレッシャーに晒されていることを反映した結果であると考えることもできる。
SBUの定義には、以下の6つの基準を適用することを提唱している(図表4.2)。最初の2つは戦略上の要件である。
・戦略上の均質性:SBUとしてまとめられた事業活動は、共通し一貫した戦略課題や成功要因を持っているべきである。そうでないと、SBUの活動における一連の戦略的優先順位や財務目標を設定することが合理的ではなくなってしまう。この基準を適用するには、より多くの小規模で同質の性格を持つSBUを必要とする。
・戦略上の独立性:一方で、SBUとしてまとめられた事業活動は、ほかのSBUの事業活動から高いレベルで独立している必要がある。各SBUがポートフォリオのその他に与える潜在的な影響を考慮することなく、ポートフォリオに関する意思決定を下し、目標を設定できるようにすることが必要である。当然のことながら、この基準を満たす度合いは、ポートフォリオ内のシナジーのレベルによって変わってくる。しかし通常は、より少数の規模の大きいSBUが作られてしまい、最初に述べた条件である戦略上の均質性に真っ向から相反することになる。
次の2つの基準は、経営上の要件である。
・意思決定を行う組織階層:SBUは、本社部門の経営陣が戦略的判断を行いたいと思う組織階層を表すべきである。これは、ポートフォリオの規模や構成だけでなく、企業のペアレンティング戦略によって異なる(第9章)。上記の例において、バイエルの業務執行役員会は3つのサブグループに運営責任を課していたものの、ポートフォリオの戦略的な舵取りは、それ以下の組織階層に属する20以上あったビジネス単位に任せることとしていた。一般的に、親会社がより現場主義の経営スタイルを取るほど、実務への介入度が高くなり、SBUの数も増えることになる。
・経営責任:SBUの戦略目標や財務目標の実施や達成に対する責任は、明確に定義されなければならない。そのためには、SBUと組織単位が一致している必要がある。少なくとも、SBUを複数の組織単位にまたがって設定したり、経営責任を分割することは避けるべきである。
最後の2つは、実務上の要件を反映したものである。
・データの入手可能性:SBUの評価や継続的な舵取りには、社内の財務データだけでなく、市場や競合のあらゆるレベルの情報が必要となる。一般的に社内の財務データについては、相応の労力を費やせば必要とするあらゆるレベルの情報が入手可能である。しかし、外部情報の入手可能性には制約があるかもしれない。その場合、一般的な市場や競合の構造に基づいてSBUを定義することになる。これは重要である。なぜならば、外部とのベンチマーキングは良いポートフォリオ分析の鍵となる要素だからだ。
・管理可能な数:SBUの総数は、本社部門の管理能力によっても制約される。個々の事業の戦略に深く関与するペアレンティング戦略を採用する場合、SBUの数を15から20以上に増やすことは現実的ではない。SBUの数は、ポートフォリオ分析手法にも影響を及ぼす。SBUの数が多ければ多いほど、分析手法はより標準化される(対照的な手法は、SBUごとにカスタマイズされた手法)。分析の詳細度は低くなり、経営会議での個々のSBUについての議論の深度も浅くなる。
以上の議論から、各々の基準は時に相反し、大抵の場合、すべての基準を満たすSBUの定義などありえないことがわかる。一般的に、戦略上の均質性や、本社部門の経営陣がより細分化された目標を望む場合、より多くの細分化されたSBUを必要とするが、SBU間の戦略上の独立性や、データの入手可能性や管理しやすさといった実務を考慮する必要がある場合、SBUの数は限定されることになる。最終的には、どの基準が企業全体の目標を最も達成できるか、という妥協点での選択になる。