alain jocard/Agence France-Presse/Getty Images 毎日30億人以上がメタのソーシャルネットワークを利用している

 これは「金網マッチ」ではないが、マーク・ザッカーバーグ氏はそれでもイーロン・マスク氏の痛い所をついているのかもしれない。

 ザッカーバーグ氏が率いるフェイスブックやインスタグラムの運営会社メタ・プラットフォームズは5日、新しい「文字ベースの対話アプリ」である「Threads(スレッズ)」をリリースした。マスク氏のツイッターに対抗する狙いがあるのは明らかだ。ザッカーバーグ氏が競合の類似製品に参入するのはこれが初めてではないし、マスク氏がツイッターを買収してから混乱が続く8カ月の間にツイッターに代わるサービスの立ち上げが試みられたのもこれが初めてではない。

 「Mastodon(マストドン)」、「Post(ポスト)」、「Bluesky(ブルースカイ)」、「Spill(スピル)」はその一例で、多くのユーザーの関心を集めた。特に人気が高いのは、ツイッター共同創業者ジャック・ドーシー氏が出資し、同社からスピンオフ(分離・独立)したブルースカイだ。調査会社シミラーウェブによると、ブルースカイのiOS(米アップルのモバイル端末向け基本ソフト)用アプリのデイリーユーザー数は、ツイッターが投稿閲覧回数の制限を発表した1日、24万人と2倍強に増えた。

 ただ、ツイッターから多くのユーザーを奪うには至っていない。マストドンのデイリーユーザー数は、マスク氏がツイッターのオーナーとなって間もない昨年11月の混乱期に一時的に85万人を超えたが、直近3カ月間の平均は10万人強にとどまっている(シミラーウェブ調べ)。ツイッターは今でも2億人以上だ。

 だが今回は状況が違うかもしれない。これまでのサービスは、作りが粗くスムーズに利用できない上、既存利用者がほぼいないものだった。だがスレッズは実質的に、毎日30億人以上が利用するメタのソーシャルネットワークの延長線上にある。調査会社ビジブル・アルファのコンセンサス予想によると、このうち10億人以上はインスタグラムの利用者で、スレッズはインスタ経由で利用できる。ザッカーバーグ氏は6日朝の投稿で、スレッズの登録者数がわずか7時間で1000万人に達したと明らかにした。

 メタはまた、ツイッターが取りこぼした広告主を狙いに行く営業力もある。メタは現在、年間1150億ドル(約16兆6200億円)近い広告収入を得ている。マスク氏による買収前のツイッターは同47億ドルだった。マスク氏の一貫性のない経営が懸念を招き、一部の広告主はツイッターを離れた。

 広告業界アナリストのブライアン・ウィーザー氏は5日、「イーロン・マスク氏の下でツイッターが自滅的な悪ふざけを繰り広げ、新興サービスがこの状況に便乗できなかったことは、誰かがツイッターから消費者のエンゲージメントと広告主の予算を大幅に獲得するチャンスがあるということだ」と指摘した。

 マスク氏の最近の動きはさらなる痛手となりそうだ。ツイッターは今週、投稿閲覧回数の制限について「プラットフォームからスパムやボットを排除するための徹底した対策」の一環だと説明。制限は一時的なもので、広告への影響は「最小限」だとした。また、人気の関連ツール「TweetDeck(ツイートデック)」にも変更を加えた。利用するには、物議を醸しているサブスクリプションサービス「Twitter Blue(ツイッターブルー)」への登録が必要になるという。

 長年無料でコアのユーザーが利用してきたサービスの有料化は、コンテンツの大半を生み出す一部ユーザーに依存してきたツイッターにとってとりわけリスクが高い。米ピュー・リサーチ・センターが昨年12月下旬に実施した米成人のツイッター利用者を対象とする調査では、調査期間中の全回答者のツイートの98%が、回答者の20%によって投稿されていた。

 当然ながらスレッズには、メタが長年にわたり抱え込んだ多くの問題がついてくる。たやすく成功を手にすれば、新たな問題も招くかもしれない。ツイッターのデイリーユーザー数はメタの全サービスの10%に満たないかもしれないが、政治や社会運動で並外れて大きな役割を果たしていることから、巻き起こした論争の大きさでは引けを取らない。

 ウェルズ・ファーゴのアナリスト、ケン・ガウレルスキー氏は5日、ツイッターについて「デジタルの公共の広場になろうとする試みは、使命は崇高だが、ガバナンスや広告需要の獲得という課題をはらんでいる」と指摘。メタにとっては「収益拡大の機会は漸進的なものになる」との見方を示した。

 ザッカーバーグ氏にとっては、マスク氏をいら立たせることがご褒美なのかもしれない。

TOP