努力の方向違いに気がついた「一言」
その努力の証であるネタの山を師匠に見せて「こんなに頑張ってすごいな」と当時の私は言われたかったのかもしれません。しかし、実際に返ってきたセリフは「で、どれがイチオシなん?」でした。よく考えれば当然のことで、師匠たちは寝る間もないほど忙しく仕事をしており、私のネタをひとつひとつ見る時間はありません。ですが、そのことに気がついていなかった当時の私は、頑張りを「量」で表現しようとしていたのです。
つまり、努力の方向が「限界まで量を出す」ということになっていて、本来の目標である「師匠たちのネタのお手伝いをする」ことからずれていたのです。
それ以降、私はネタを考えるのに同じ時間を割きながらも、「台本を簡潔にまとめる」「ポイントを強調する」など自分の思考を凝縮して師匠たちに伝えるようにしました。仕事のやり方をはじめて変えたとき、台本はこれまでの1/10程度である、わずか3ページほどにまとまりました。「こんなに薄いものでいいのか?」と不安に思いながら師匠に台本をお渡しすると、一言「わかりやすくまとまってて、ええなぁ、ちゃんと考えたの伝わるわ」と言われて嬉しかった記憶があります。
師匠からしたら何気ない言葉だったのかもしれませんが、私の努力の方向がしっかりと決まった瞬間でした。
こういった経験もあり、今でも生徒たちには「頑張るのは良い、一番大事なこと。だけど、それが舞台につながるものなのか忘れないように」と教えています。「ネタをたくさん考えた」「24時間お笑いのことだけ考えている」など、どれも素晴らしいことですが、それはお客さんからしたら関係ありません。ネタの時間わずか数分で面白いかどうか、シンプルにそれだけで評価されるわけですから、正しい努力が必要になるわけです。
お笑いの話が中心になりましたが、努力の方向については仕事も同じかと思います。「頑張っているのに仕事ができない」と思われては非常にもったいないですから、ぜひ意識してみてください。