「先制総力戦略」で新たな市場を創った伊藤園

「マネジメントの父」と呼ばれ、マネジメントの基本と原則を体系的に解き明かしたP.F.ドラッカー教授は、2005年に他界したが、いまもなお多くの経営者の支持を得ている。ダイヤモンド社が主催するドラッカー塾(R)は、ドラッカー教授が体系的に書き記したマネジメントの基本と原則を、事例を交えてわかりやすく伝え、実際の経営に適用する研修を提供している。講師を務める国永秀男氏(株式会社ポートエム代表取締役)は晩年のドラッカー教授に師事し、教授のアドバイスを最大限に反映してこの講座を創りあげた。2003年の開始以来で累計2000名以上の修了生が学んでいる。その内容から、起業・新事業戦略についてのプログラムのエッセンスを紹介する。(ドラッカー塾(R) 今給黎健一)

どんな企業にも突如として予想もしない競合が現れる

 一昔前では想像もできていないレベルでビジネスがグローバルを前提に動き、マーケットや環境が変化し続けている。販売台数で世界トップを争うトヨタ自動車であっても、電気自動車の市場拡大によってテスラモーターズに2020年に時価総額で逆転された。さらにはアップルの自動車産業への参入も噂されるように、将来においても安泰な状況とは言い難い。

 どんな企業にも突如として予想もしない競合が現れる可能性がある。どの企業においても主力商品が、いつの間にか撤退を余儀なくされることが起こりえる。ドラッカー教授が言うように、この変化に対応するためには、変化の先頭に立って、自らが変化を起こす存在になるしかない。常にビジネスの環境、市場の動向を理解し、今日の主力商品を自ら陳腐化して新たな事業や商品を創り出す企業体質にするのだ。

 とはいえ、新商品の開発や新事業を起こすのは容易ではないように思える。ドラッカー教授は次のように言っている。「新事業には独創性が何よりも大事と思いがちですが、実際にそれが問題である事は滅多にありません。どんな企業にも優れたアイデアがたくさんあります」。

 では多くの企業が新事業を実現できない理由は何なのだろうか? ドラッカー教授は新事業戦略について次のように述べている。

「本当の問題は、本来有望なはずの新製品や新サービスの失敗率があまりに高いことです。失敗のほとんどは、新規事業のための戦略を知らないことが原因です。その製品や新サービスが正しいものでありさえすれば、適切な戦略によってかなりの確率で成功させることができます」。