【コンサルが明かす】職場にいる「部下を潰す上司」「部下を活かす上司」の決定的な差とは?Photo: Adobe Stock

新年度で配置換えがあり、管理職として仕事をしなくてはならなくなった……。マネジメント経験がなく、どうすれば部下に動いてもらえるのかわからない。自分の頭で考えて行動してほしい……。そう悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、こういった新米上司がぶつかる壁をどう乗り越えるべきか、「ブッ刺さりすぎて声出た!」「今年一位かも」と話題沸騰中の著書『頭のいい人が話す前に考えていること』の20万部突破を記念して元デロイトのコンサルタント・安達裕哉さんに特別インタビューを実施します。
右も左もわからない管理職1年目を乗り切るコツを、安達さんに、くわしく教えていただこうと思います!(取材・構成/川代紗生、撮影/疋田千里)

管理職がぶつかる「意欲も能力も低い部下」問題

――マネジメント経験がないのに管理職になってしまった場合、「部下への指示の仕方がわからない」「部下との距離の取り方に失敗した」など、さまざまな壁にぶつかると思います。安達さんが、これまで「上司」としてふるまう上で、いちばん「しんどいなあ」と思ったのは、どんな瞬間でしたか?

安達裕哉(以下、安達):私自身の管理職経験や、コンサルタントとしていろいろな組織を見てきた中で考えると、「管理職の一番の悩み」は「向上心がなく、能力が低く、素直でない」部下の扱いだと思います。

 上司との関係や目標のキツさ、会議の多さよりも、こういった「教育の費用対効果が合わない人」をどうするべきかって、判断がすごく難しいんですよね。

 新しく管理職になったばかりの頃は、「何がなんでも成果を出さなきゃいけない」というプレッシャーもありますし、メンバーのフォローをしたり、数字が足りなければ自分で動いたりと、やらなきゃいけないことがたくさんあります。

 そんな中で、意欲も能力もない人の育成にどれくらい時間をかけるかって、大きな悩みどころなんです。

 極端なことを言えば、今年度の目標達成のために、その人を「戦力としてカウントしない」という選択肢もあるわけですから。

頭のいい人が話す前に考えていること

――たしかに!どれだけ成長するか未知数な人に時間や労力をかけるよりも、確実に伸ばせそうなところに力を割いた方がいいですもんね。

安達:「今年、いろいろな経験を積んでもらえば、2年後、3年後は活躍してくれるかもしれない」と推測することはできますが、今年度の目標に関していえば、この人に時間を使う余裕はないよな……。他の優秀なメンバーと、管理職である自分とで頑張れば、とりあえず目標は達成できそう……。となると、「意欲も能力も低い人には構わない」「放っておく」という選択が、最適解だったりするのです。

真面目な人ほど部下のメンタルを潰してしまう悲劇的理由

――今、お話を伺っていて思ったのですが、そういう「戦力としてカウントしない」認定されてしまった人って、成長する機会を失ったまま、延々とお荷物扱い……なんてことになりませんか?

安達:だいたい、そういう人は社内で「問題児」扱いされていたりしますよね。

 たとえば、知人にシステム開発業の管理職がいるのですが、

「あの人、そもそも技術者向いてないよ」

 と、いままで何百回聞いたかわからないくらい言っていました。

「考えるのが嫌いだといってる」
「同じミスを何回もして、しかも直そうととしない」
「勉強しない」
「そもそも開発に興味がない」
「口ばかり達者で、行動しない」

 など、まあ、「それはたしかに困るよなあ」という話が掃いて捨てるほど出てくるのです。

 もちろん、本質的なところで言えば、会社の採用ミスなのでしょうが、管理職にそんなことを言う権利はありません。会社員である以上、「手持ちのカードで勝負する」ことを求められますし、「能力不足の人への教育も管理職の仕事だ」みたいに、建前を言ってきたりするわけです。

――やらなければいけないことがこんなにたくさんあると、新米上司もいっぱいいっぱいになってしまいそうですが……。

安達:そう、ここで、管理職の肩には「チームとして目標を達成しないといけない」と、「意欲・能力が低い人の育成をしなければいけない」というプレッシャーがのしかかります。

 ここで、新米上司が陥りがちなパターンは、大きく分けると2つです。

①「この人に構っていると成果が出せないから、放っておく」と、目標を優先させるパターン

 もしくは、「今年中に成果を出せるように、がんばって育成しよう」と、気合を入れすぎて、部下のメンタルを潰してしまうパターンです。

――ああ、あるあるですね……。

安達:真面目な人ほど「全部きちんとやらなきゃ」と自分を追い込むので、後者のようなトラブルが起こりがちです。「あなたのことを絶対に見捨てないよ」と、がんばって指導しようとするのですが、人間、それほど簡単に成長するわけはありません。初年度でいきなり成果を出せるようになるのはごく稀です。そんな中で、無理やり成果を出させようとすると、部下は徐々に仕事そのものが怖くなり、会社にも来なくなってしまい、目標も達成できず……。みたいなことになるわけです。

頭のいい人が話す前に考えていること安達裕哉(あだち・ゆうや)
ティネクト株式会社 代表取締役
1975年生まれ。筑波大学大学院環境科学研究科修了後、理系研究職の道を諦め、給料が少し高いという理由でデロイト トーマツ コンサルティング(現アビームコンサルティング)に入社。品質マネジメント、人事などの分野でコンサルティングに従事し、その後、監査法人トーマツの中小企業向けコンサルティング部門の立ち上げに参画。大阪支社長、東京支社長を歴任したのちに独立。現在はマーケティング会社「ティネクト株式会社」の経営者として、コンサルティング、webメディアの運営支援、記事執筆などを行う。また、個人ブログとして始めた「Books&Apps」が“本質的でためになる”と話題になり、今では累計1億2000万PVを誇る知る人ぞ知るビジネスメディアに。Twitter:@Books_Apps

――なんだか、胃が痛くなってきました(笑)。管理職、つらすぎませんか!?

安達:だから、上手くいく管理職ほど、「〇〇〇〇でいいよ」と放っておく人が多い気がしますね。仕事には、その人の成長スピードがあります。いつ成熟するのかは人それぞれなのに、その人のレベルをはるかに超えた成果を求めると、結果的に、部下のポテンシャルを潰してしまう恐れもあります。