企業による新卒社員の獲得競争が激しくなっている。しかし、本当に大切なのは「採用した人材の育成」だろう。そこで参考になるのが『メンタリング・マネジメント』(福島正伸著)だ。「メンタリング」とは、他者を本気にさせ、どんな困難にも挑戦する勇気を与える手法のことで、本書にはメンタリングによる人材育成の手法が書かれている。メインメッセージは「他人を変えたければ、自分を変えれば良い」自分自身が手本となり、部下や新人を支援することが最も大切なことなのだ。本連載では、本書から抜粋してその要旨をお伝えしていく。

メンタリング・マネジメントPhoto: Adobe Stock

相手の気持ちになって考えてみる

 相手をそのまま受け入れることから、さらに相手と同じ視点に立って考えてみることができれば、より深い信頼関係をつくることができるようになります。

 そして、相手と同じ視点に立って考えるためには、まず相手と同じ気持ちにならなければなりません。

「相手と同じ気持ちになる」

 言葉で表現すればとても簡単なことですが、実際には極めて難しいことです。相手と同じ気持ちになろうとしても、自分の思いが優先してしまって、なかなかできるものではないでしょう。

 私たちは、他人との関係において、すでに第一印象で思い込んでしまっていることがあります。さらに、長くつきあっていれば、それまでの経緯から、相手の性格まで決めつけてしまっていることもあるかもしれません。

 しかし、この自分の思い込みが、相手と同じ気持ちになる時に、最大の障害となってしまうのです。

 ですから、相手と同じ気持ちになるためには、あらかじめ自分が相手に対してどのような思いを持っていたとしても、それを一時忘れて考えてみることが必要です。

 上司対部下の関係や、これまでの行動に対する評価、好き嫌いなど、自分の思い込みを一時忘れて、相手を一人の人間として、その思いや感情をありのまま受け止めてみるのです。

 これは完璧にできなくともかまいません。いや、そもそも完璧に相手と同じ気持ちになることなどできないことなのです。

 それよりも、人間関係においては、どのような姿勢でいるかが問題です。なぜなら、こちらが同じ気持ちになって考えようとしていることが相手に伝われば、それによって信頼関係ができるようになるからです。

 また、相手の気持ちに少しでも近づくことで、相手に対して、どのような支援をすべきかも、適切に判断することができるようになります。

 支援の手法は多岐にわたります。その中で、どのような支援が望ましいかは、相手の状況、特に相手の気持ちによってまったく変わってしまうのです。

 つまり、相手の気持ちに近づくことができれば、相手の視点から物事を判断することができるようになります。

 反対に、自分と相手の考える視点が違えば、相手に対する接し方を誤ってしまいます。それこそ、どんなに支援をしても、相手の気持ちは、「そうじゃないんだ」「ありがた迷惑だ」ということになってしまいかねません。

 適切な支援をするためにも、相手の気持ちになって、相手の視点から考えることが必要なのです。