若者のトレンドに話を戻すと、もしかすると読者の中には「あくまで店員の演技を楽しんでいるだけで、真の意味でサービスレベルが低いお店を許容しているわけではないのでは?」と疑問を持つ人がいるかもしれません。

 ですが、実は「接客態度が悪くても気にしない」という新しい価値観は、これまで紹介してきた飲食店とは違った「店員が本当に不慣れな店」の台頭にもつながっています。

店員も客も居酒屋初心者
不慣れでも許し合う「暖かい空間」

 最後にその具体例について紹介しておくと、今年5月に東京・新橋にオープンした「新橋銀座口ガード下 THE赤提灯」は要注目です。

 スキマバイトサービス「タイミー」を運営する同名企業と、飲食店の運営を手掛けるミナデインがタッグを組んで始めた居酒屋なのですが、面白いのはアルバイト店員が全て「タイミーを利用しているスポットワーカー」であること。「初めての人が働きやすい」をコンセプトに、飲食業界でのバイト経験が薄い学生などを集めているといいます。

「店員が超失礼」がウリの飲食店をZ世代が楽しむ訳、客にテキーラ噴射・メニュー放り投げ…「THE赤提灯」の店内(出典:ニュースリリース)

 このお店を訪れる客層も、やはりZ世代が中心です。若者たちからは、職人気質のマスターがお店を切り盛りし、お酒を飲み慣れた大人が集まる「昔ながらの赤提灯」に入るのはハードルが高くても、THE赤提灯は気軽に入りやすいとの評判を耳にします。

 その理由はもちろん、接客する側の店員も不慣れであり、店内が“初心者”ばかりだから。若者たちによると、店員の手元がおぼつかなくても「お互いさまだよね」と許し合い、それはそれで温かい空間が広がっているそうです。

 年齢を重ねた人はどうしても「近頃の若いやつは…」と、若年層の流行・価値観に否定的になってしまいがちです。ですが、このように「店員への優しさ」が一つのトレンドになっていることは、これまでになかった“尊い現象”として知っておいて損はないでしょう。