子どもたちが生きる数十年後は、いったいどんな未来になっているのでしょうか。それを予想するのは難しいですが「劇的な変化が次々と起きる社会」であることは間違いないでしょう。そんな未来を生き抜くには、どんな力が必要なのでしょうか? そこでお薦めなのが、『世界標準の子育て』です。本書は4000人を超えるグローバル人材を輩出してきた船津徹氏が、世界中の子育ての事例や理論をもとに「未来の子育てのスタンダード」を解説しています。本連載では、船津氏のこれまでの著書から抜粋して、これからの時代の子育てに必要な知識をお伝えしていきます。

世界標準の子育てPhoto: Adobe Stock

優秀な子どもが身につけている習慣とは

 優秀な子どもにはいくつもの行動の一致が見られるのですが、たとえば大きな特徴の一つとして「何事にも一生懸命に打ち込み、手を抜かない」ことが挙げられます。

 自分のための努力を惜しまず、勉強も、課外活動も、恋愛も、遊びも、100%の力で打ち込むのです。

 いつでも100%を出し切るからこそ、自分の選択に後悔することなく、また失敗や成功、すべての行動から学びを得て、成長し続けていくという好循環ができていきます。

 それゆえに、少々の挫折には折れない心の強さ、物事を最後までやり遂げる意志の強さ、何事もコツコツ続けるという積み重ね、より大きな目標に挑戦するチャレンジ精神などが身についてゆくのです。

 そのような子どもは、「勉強しろ」と言われないでも自主的に勉強し、もちろん、社会に出てからも誰に何を言われずとも努力と研鑽を続けていけるのです。

 教育界では、このような子どもの資質を「非認知能力」と呼んでいます。非認知能力とはわかりやすく言うと、「数値化できないが、人生に欠かせない能力」のこと。

 やる気、粘り強さ、思考の深さ、コミュニケーション力などの能力です。数多くの研究によって非認知能力の高さは学力以上に子どもの成功や幸福感に直結していることがわかっています。

 この能力はどうすれば身につくかと言うと、答えはとてもシンプルです。

 子どもに「よい習慣」を身につけてもらうこと。これに尽きます。子どもの能力を伸ばす行動を積み重ね、習慣化し、定着させることです。

 優秀な子どもは、もれなくよい習慣を持っています。この習慣が、子どもの人生の基盤となっていくのです。

 では具体的に、どのような習慣がよい習慣なのでしょうか?

 私が最もわかりやすい指針として挙げたいのが、カリフォルニア州立大学名誉教授のアーサー・コスタ博士(アメリカで教育カリキュラムの改革に取り組んできた教育者)が提唱する「Habits of Mind/心の習慣」です。

 この「心の習慣」はアメリカで生まれ、いくつかの学校で実験的に取り入れられると、子どもはもちろん、先生や父兄にも大きな成果をもたらしました。

 現在はアメリカだけでなく、イギリス、オーストラリア、シンガポール、香港など世界中の学校で取り入れられ、学力向上や生活態度の改善など、めざましい成果を挙げています。その習慣とは、次のとおりです。

Points 16のよい習慣
1 やり抜く習慣………あきらめない、やり続ける力
2 衝動をコントロールする習慣………行動する前に考える、落ち着く力
3 共感して聞く習慣………気づかう、集中する、注意深く聞く力
4 柔軟に考える習慣………別の可能性を考える、違う見方をする力
5 思考を思考する習慣………自分の思考の偏りに気づく、考え直す力
6 正確さを追求する習慣………念には念を入れる、洗練する力
7 疑問を持ち、問題提起する習慣……なぜ? どうして? 根拠は? と問う力
8 知識や経験を活かす習慣………思い出し、応用する力
9 明晰に考え、伝える習慣………はっきり話す、言葉を選ぶ力
10 五感でデータを集める習慣………感じてみる、触れてみる、感性を活かす力
11 想像、創造、革新する習慣………ユニーク、独創的である力
12 世界の神秘と発見を楽しむ習慣……よく見る、夢中になる、とりこになる力
13 チャレンジする習慣………リスクを冒す、勇敢である、冒険する力
14 ユーモアを見つける習慣………肩の力を抜く、楽観的になる力
15 共に考える習慣………協力する、共に学ぶ、持ちつ持たれつの関係を作る力
16 常に学び続ける習慣………変わり続ける、興味を持ち続ける力

「16 Habits of Mind/16の心の習慣」:出典「Habits of Mind」Arthur Costa

 これらを見ると、「たしかに、優秀な人はこんな資質を持っている」と納得できるものではないでしょうか?

 これらの習慣が培われていくことで、学業だけでなく運動やアートなどの分野、人とのコミュニケーション能力やリーダーシップや自己管理能力などを伸ばすことができます。

 私が見てきた子どもたちの中で、大きく羽ばたいて活躍していくのは、こうしたよい習慣を身につけていった子どもたちです。

 では、この習慣はどのようにして身につくのでしょうか? 習慣とは、日々の積み重ねであり、すべてを一度に鍛えることはできません。

 子ども時代を通して、さらに言えば一生を通してこれらのよい習慣を身につけていくのです。

 ですが、習慣を作るということはそこまで難しいことではないのです。

 親がよい習慣が身につく仕組みを作ってあげることで身についていき、加速度的に大きな効果を発揮していきます。

 家庭での過ごし方、声のかけ方、態度、表情、サポートの仕方、出かける場所、与える環境など、親の行う小さな行動が子どもの習慣を大きく変えるきっかけとなるのです。

 本当に小さなことなのかどうか、一つ、ハワイにあるワイキキ小学校の例を出しましょう。

学力を70%向上させた、ワイキキ小学校の奇跡

 ワイキキ小学校はごく小さな公立小学校ですが、前述のコスタ博士が提唱した「心の習慣」を導入後、成績優秀な小学校としてブルーリボン賞(アメリカで優れた学校に大統領から贈られる最高の栄誉)を07年と13年に2回受賞しました。

 ワイキキ小学校は学区に住む子どもであれば誰でも通えるごく一般的な公立小学校です。

 さらに言うと、そもそもハワイの人口構成はアジア諸国からの移民が4割以上を占める世界でも特殊な場所で、観光業が主力産業、地元の経済状態はよくありません。

 事実、ワイキキ小学校の生徒構成は低所得者家庭が全体の38%、英語を第二言語で学ぶESL生徒が全体の30%と、教育環境としてはかなり厳しい状況です。

 03年の学力調査では英語のReading(読解力)の習熟度が41%、算数の習熟度が28%と、学力的にも厳しい学校でした。

 ところが、コスタ博士の習慣教育を取り入れ、劇的に変わりました。08年の学力調査では英語の習熟度が83%、算数の習熟度66%を記録。14年には英語94%、算数93%というレベルまで高まったのです。

 いったい、何をすればそんなことが起きるのでしょうか?

 ワイキキ小学校で行っていることは、とてもシンプルです。先に挙げた16の習慣のうち、毎月最低一つの習慣をテーマに掲げ、学校と家庭が協力して子どもに意識づける、といった地道な活動です。

 たとえば「やり抜く習慣」がテーマであれば、授業中にわからない問題に出合った時に「あきらめないで!」と生徒同士が声をかけ合う。先生も「やり続けよう!」と励ます。家庭でも「あきらめないで!」「やり続けよう」と共通の声がけをするのです。

 子どもを取り巻く人たちが同じ言葉をかけ続けることで、必然的に意識が高まるのです。

 あいさつのしつけのようなものです。親、兄弟、近所の人が「おはようございます」と声を毎日かけることで、ごく自然に「おはようございます」と照れずにあいさつできるようになりますね。

 親や先生が根気強く声を掛け、生徒たちを励まし続けることで、生徒たちは、一人ひとりが自分たちのできる範囲であきらめずに思考し、課題に粘り強く取り組んでいく習慣を身につけることができたのです。

 私がワイキキ小学校を訪問して驚いたのは、何より、生徒も先生も明るい表情で、学びを楽しんでいる雰囲気が伝わってくることです。

 よい習慣を意識づけることによって学校全体の雰囲気がポジティブになり、自信に満ちあふれた学習環境を実現しています。

 習慣の力は、家庭の経済環境や家柄、国籍や持って生まれた資質や才能に関わりなく、誰でも訓練によって高められるのです。

 ただし誤解してほしくないのは、習慣力は学校や先生が鍛えるものではない、ということです。家庭と学校が一致団結して習慣教育に取り組んだワイキキ小学校は稀なケースです。

 よい習慣を育てるには、あくまでも「親」が中心となること。家庭内での努力が必須になります。

 (本原稿はToru Funatsu著『すべての子どもは天才になれる、親(あなた)の行動で。』から一部抜粋・編集したものです)