「子どもには、自由に、自分らしく生きてほしい」。そんな願いを持つ親は多い。子どものことを想ったやさしい言葉に思える。ただし、これが子どもにとっては「生き方指示」になるおそれがある…。そう教えてくれるのは医師・臨床心理士の田中茂樹氏だ。田中氏は不登校や引きこもりなどを含め、さまざまな子どもの問題について親からの相談を受けてきた。自身も共働きで4人の子を育てながら、20年間、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続け、たどりついた子育て法をつづったのが『子どもが幸せになることば』。2019年の発売後すぐに重版となり、その後も版を重ねてロングセラーとなっている。この記事では、親の願いを子どもに伝えることの危険性について紹介する。(構成:小川晶子)
「好きに生きたらいい」という言葉にひそむ危険
子どもにどうなってほしいかと聞かれたら、「幸せになってほしい」「自分らしく生きていってほしい」「自由に楽しく生きてほしい」と答える人は多いのではないだろうか。
これらは一見、子どものためを思ったやさしい言葉に思える。
実際、こう口にする人は一点の曇りもなく、子どものためを思って言っているだろう。
しかし、実は子どもにこういった言葉をかけるのは要注意だという。なぜか。
本書の著者で、医師・臨床心理士の田中茂樹氏はこう言っている。
これを読んでハッとした。背負わなくていいんだよ、好きにしていいんだよと言うつもりが、逆に背負わせてしまう……。
確かにそうだ。子どもは健気で、親の言うことをまっすぐに受け止め、期待に応えたいと思うところがある。
本当に「好きにする」のを認めるのなら、何も言わなければいいわけです。「好きにしたらいい」という言葉には、「あなたは私のために、楽しく生きねばならない」とか「幸せにならねばならない」という要求の一面があり、子どもにとってはやっかいなのです。(P.199)
良かれと思ってかけた言葉が、生き方指示になっている
本書には非常にわかりやすい例が載っていた。
不登校の高校生の父親の例だ。その父親は、両親から学歴偏重の価値観を押しつけられ、やりたいことをがまんして子ども時代を過ごしてきた。
結果、エリートの地位を得たけれど、自分の息子にはもっと違う生き方をしてほしいという思いがある。
この父親の言葉には、多くの人が共感できるだろう。
現代の親たちの多くは、「いい大学へ行って、いい会社に入るのが幸せだ」という価値観で育てられてきた世代だ。
団塊世代の親の価値観を押しつけられて頑張ってきたが、本当にこれでよかったのか、という思いが頭をもたげる。
それで、子どもには「型にはまらず、自分らしく、自由に生きてほしい」と願うのだ。
しかし、子どもの視点に立ってみれば、これはものすごく難しい課題である。自分らしさとは何か。自由とは何か。
考えて苦しくなるかもしれない。簡単にそんなこと言われても……という気持ちになるだろう。じゃあ、どうしたらいいのか?
田中先生はこう言う。
良かれと思って、ついつい言ってしまう言葉というのはたくさんある。言ってはダメだということではなく、知らず知らずに生き方の指示になっていないか? 子どもに背負わせていないか? とふり返ること。それができれば、大きく違うはずだ。
子どもを安心させてあげる言葉かけ
本書は親が「言いがちなことば」29個を取り上げ、「信じることば」に変換して教えてくれている。
「型にはまらず、自由に、自分らしく生きてほしい」を「信じることば」に変えるとこうなる。
「そのままがいい。そのままで大好きだ」
あらためて、ジーンとする、いいことばだ。
本書全体を通じて、大事にしているのは「子どもを安心させてあげること」だ。子どもを安心させてあげられる、「信じることば」が詰まっている。
育児をする中では心配になることもイライラすることも多いものだが、本書を手の届くところに置いておき、表紙だけでも見てほしい。楽しそうに逆立ちしている子の絵を見て、ほっこりした気分になる。
「そうだった、そうだった。子どもが安心できることが一番」と思えたら、子育てがきっとラクになると思う。