子育て中は、ついイライラしてしまうことがたくさんある。食べ物や飲み物をこぼしてテーブルや床を汚すのはその代表例の一つだ。そんなとき、「だからこぼすって言ったでしょ!」は言いがちな言葉。しかし、この言葉を言うことで失われるものがある……。そう教えてくれるのは医師・臨床心理士の田中茂樹氏だ。『子どもが幸せになることば』は、田中氏自身も共働きで4人の子を育てながら、20年間、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けてきてたどりついた子育て法の本。2019年の発売後すぐに重版となり、その後も版を重ねてロングセラーとなっている。この記事では、食べ物をこぼす子どもへの声かけを事例とともに紹介する。(構成:小川晶子)
子どもの失敗は「わざと」ではない
幼い子は、食べ物や飲み物をよくこぼす。
手があたってコップを倒し、テーブルはおろか洋服も床も牛乳まみれ。そんなことがしょっちゅうある。
朝のバタバタした時間にこぼすから、忙しさ倍増だ。早くこぼさないようになってほしくて「もうちょっと気をつけてよ」「だからこぼすって言ったでしょ」などと言ったことはないだろうか。
しかし、これらの言葉は役に立たないという。本書の著者で、医師・臨床心理士の田中茂樹氏はこう言っている。
まだ身体の知識が足りないので、「ここにコップがあると手がぶつかるな」ということがわからない。大人は気をつけているからエライのではなく、気をつけなくても自然にできるようになっているだけなのだ。
筆者はこれを読んで目が覚めたので、息子に「だからこぼすって言っただろ」と小言を言っている夫に読んで聞かせた。
親が言わないと、いつまでもできないのではないかという疑問
すると、夫は開口一番こう言った。
「でも、一応は注意しないと、こぼしてもいいんだって思っちゃって、いつまでもこぼすんじゃない?」
はい、この疑問。本書の流れそのままの質問がきた。筆者は得意げに続きを読み上げた。
これは名言ではないだろうか。忘れないように壁に貼っておきたい。夫に伝えたら唸っていた。そして、今後は食べ物をこぼしても何も言うまいと決めた。
先日の我が家での事件が思い出される。筆者の小学1年生の息子は、食べ物をこぼすことにかけては右に出る者を知らず、毎日必ず何かこぼしている。
家族でお祭りに行ったときのことである。どこもかしこも混んでいて、やっと手に入れた屋台のホットドッグを、やっと見つけたベンチで食べようとしたとき・・・・・・。息子はホットドッグを丸ごと豪快に地面に落とした。
「え!?」
またやったのかと驚き呆れて息子を見ると、彼は何も言わず目に涙をためていた。
その顔を見てはっとした。彼だって、落としたくなかったのだ。頻繁に食べ物をこぼす自分のことをふがいなく思っているのだ。そして、さすがにこのときは、「大丈夫だよ」となぐさめた(なお、地面についた部分のパンをむしって、あらかた食べた)。
自尊心を損なうことこそ大変
田中先生は「育ちそこなった自尊心や積極性を回復するのは大変」と述べている。
本書では、親が子どもに言いがちなことば29個を「信じることば」に変換して教えてくれている。
「だからこぼすって言ったでしょ!」は、「大丈夫だよ。拭いておくね」。
子ども自身が、自分でうまくなりたいと思っているのだと信じることで、あらゆることがうまくいく気がする。
子どもにはできるだけたくさんの「信じることば」をかけてあげたいと思う。