そごう・西武の旗艦店である西武池袋本店。売却を巡って改装案が二転三転する中で、テナントにも動揺が広がっているそごう・西武の旗艦店である西武池袋本店。売却を巡って改装案が二転三転する中で、テナントにも動揺が広がっている Photo:kyodonews

セブン&アイ・ホールディングスによるそごう・西武売却問題で、買い手の米投資ファンドと連携する家電量販店が、池袋本店の1階出店を諦めたと報じられた。だが、これは反対の声を抑えるための“まやかしの譲歩案”だった。同譲歩案を拒否していたそごう・西武の林拓二社長が解任されるなど、売却交渉は、風雲急を告げている。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文)

「1階への出店を断念」と報じられたヨドバシの譲歩案の実態

 賛成派と反対派が角を突き合わせてきた百貨店のそごう・西武売却交渉がいよいよ8月にヤマ場を迎える。それを前に同交渉は情報戦の様相を呈してきている。

 その象徴が、7月18日付で複数の新聞が報じた、そごう・西武売却交渉を巡るニュースだ。同記事によれば、買い手の米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループと連携する家電量販店ヨドバシホールディングスが、「西武池袋本店の1階への出店を断念した」という。

 だが、ダイヤモンド編集部の取材によればヨドバシが1階への出店を断念した事実はない。セブン&アイ・ホールディングス(HD)関係者は当該記事について、「ヨドバシの譲歩を過大に報じており、売却を進めたい情報提供者の意図が見える」と話す。

 報じられた譲歩が事実なら、売却後の事業計画(具体的には、ヨドバシが中心となる西武池袋本店の改装案)に難色を示していた関係者は反対の声を上げづらくなる。“池袋の玄関口”といっても過言ではない同店の入り口が家電量販店に変わることに街づくりの観点から反対していた豊島区も、百貨店事業の継続性の観点から反対していたそごう・西武労働組合も、売却後の事業計画を否定する根拠を失うからだ。

 買い手側からすれば、「最も集客力があるフロアで譲歩したのだから、四の五の言わずに受け入れろ」ということになる。

 実際に、7月21日、関係者の6社(セブン&アイHD、そごう・西武、フォートレス、ヨドバシカメラ、西武ホールディングス〈HD〉、豊島区)の首脳らが一堂に会し、ヨドバシなどの譲歩案を基に売却交渉の着地点を探った。

 しかし、である。ダイヤモンド編集部が入手した譲歩案は、「百貨店事業の継続と従業員の雇用を維持する」というセブン&アイHDの井阪隆一社長の“公約”とは矛盾する内容だった。

次ページでは、ヨドバシが譲歩したとされる西武池袋本店の改装案の詳細(各フロアのヨドバシと百貨店エリアの境界など)と、そごう・西武の林拓二社長が退任を迫られることになった経緯を明らかにする。