新入社員の配属のタイミングは各社の方針や職種によっても変わってきていますが、最近では人手不足という事情もあり、早めに現場配属になっている企業が多いようです。新人たちはそろそろ仕事にも慣れ、先輩の指導のもと、少しずつ仕事らしい仕事をさせてもらっている時期かもしれません。やるべき仕事がうまくいかなかったとき、新人に「なぜ、できないのかを考えて」とか、「なんで失敗したのか、振り返ってみて」などと声掛けしていませんか? しかし、新人に対して「なぜ?」と聞いても、いい結果にはなりません。その理由を、社内講師・社外講師として30年以上新人を見てきた筆者が解説します。(カスタマーズ・ファースト株式会社代表取締役・代表講師、産業カウンセラー 片桐あい)
「なぜ」「なんで?」と
問われることの弊害
子どもの頃、「なんで(なぜ)遅刻したの?」と先生に訊かれたことはありませんか? 「だって寝坊したから」「なんで寝坊したの?」「だってお母さんが起こしてくれなかったから」「なんで、自分で起きないの?」「だって目覚まし時計がどこか行っちゃったから」……こんな不毛なやり取りをした経験はないでしょうか。
人は「なぜ?」と問われると、自分を正当化するための言い訳が先に出てきてしまうものです。もちろん、大人は言い訳が浮かんだとしても客観的かつ合理的な理由を述べてくるわけですが、それでも理由の中には他責の内容も浮かぶ場合もあるでしょう。
まして新人であれば、経験も少なく、どう回答したら自分も周囲の人も傷つけることなくうまく解決できるか、改善ができるのか、を瞬時に判断して答えることは難しいのではないでしょうか。
その結果、新人たちは先輩や上司に対し「詰められたような感じがする」「言い方が厳しい」「冷たい対応に思える」などと思うようになります。新人の行動を修正するつもりで問い掛けたはずが、人間関係の不協和音に発展してしまうということがあります。
「なぜ」という質問は、人ではなく
物やサービス、業務プロセスに向けるもの
ビジネスの分析手法として「なぜなぜ分析」や「なぜを5回繰り返す」というのがありますが、これは物やサービス、そして業務プロセスなどに不備がある場合、その原因を深掘りする時に有効な手法です。
製品に障害があり、その原因を見つけるために「なぜ、その問題が起こったのか?」と問う。提供しているサービスに不備があり、その改善のために「なぜ、そのサービスで問題が起こったのか?」を考える。業務プロセス通りにやっているのに不具合が起きた、その問題回避のために「なぜ、その業務プロセスでうまくいかないことが起きたのか?」と理由を考える……こうした際には「なぜ?」の質問が機能します。
しかし対象が、人の行動やその人の人格に起因するような問題の場合に、この「なぜ」という質問をぶつけると、相手が心を閉ざし、防御姿勢を取るようになります。結果、本来目指していた問題解決に至らないケースが散見されます。