2023年10月からインボイス制度が始まります。「増税ではないか?」「経理の手間が増え、負担が増大する」など、さまざまな意見が出ています。そのインボイス制度の影響を強く受けるのが「ひとり社長」です。しかし、業種・業態・売上規模によっては、「インボイスに登録しないほうがいい」と提案できるケースもあり、戦略的な選択が求められる制度ともいえるのです。
本連載は、経費精算から決算・申告まで、ひとり社長の経理の基本を学ぶものです。著者は、税理士の井ノ上陽一氏。インボイス制度、電子帳簿保存法に完全対応の『【インボイス対応版】ひとり社長の経理の基本』の著者でもあります(発売は8月2日)。「ひとり社長なら、経理はこれだけでいい!」とポイントをおさえた1冊になっています。

「インボイスに登録したほうがいい」断言できる3つのパターンPhoto: Adobe Stock

「インボイスに登録したほうがいい」3つのパターン

 2023年10月1日からインボイス制度が始まりますが、登録しておいたほうがいいパターンをご紹介します。

①すでに消費税を納めており、消費税を請求している

 課税事業者として、すでに消費税を納めている場合、または今後納める場合は、インボイスに登録しないと請求書に登録番号を載せることができません。

 登録番号がない請求書ではお客様が困る場合があります(消費税の負担が増える)。どのみち消費税を納めるのならインボイスに登録しない理由はありません。経理を徹底的に効率化していきましょう。

②消費税の請求額が、納税額より大きくなりそう

 インボイスに登録すると、消費税を請求し、納めることとなります。消費税の請求額と納税額を比較してみましょう。メリットが大きいなら、インボイスに登録したほうが差し引きで得となります。

 すでに消費税を請求している場合(消費税を納めることと請求することはまた別物です)、インボイスに登録しないと、その消費税の分、売上が減る可能性があるでしょう。「インボイスに登録していないなら、消費税を払わなくていい」と考える方も多いからです。

 2023年10月1日から3年間は、インボイスに登録しないことによるお客様側の負担は請求する売上の消費税額のおおむね20%です。消費税全額を引くのはちょっと違う話です。

 なお、講演料や出版、請負の仕事は、お客様側から支払いがあり、こちらが請求書を出すわけではありません。その場合、インボイスに登録しないと消費税10%を計算せずに払われる、つまりインボイス前よりも10%売上が減るということもありえます。これらの売上の割合が多いなら、インボイスに登録したほうがいいでしょう。

③お客様が事業者メインで、かつ売上5000万円超の見込み

 お客様の2期前の課税売上高が5000万円を超えているなら、お客様は消費税を原則課税で計算しなければいけません。

 その場合は、こちらがインボイスに登録しないとお客様側にデメリットがあるため、登録を検討したほうがいいでしょう(あえて登録せずに値引きで対応する方法もあります)。

(本原稿は井ノ上陽一著『【インボイス対応版】ひとり社長の経理の基本』から編集・抜粋したものです)