ビッグモーターの経営計画書に記された「幹部には目標達成に必要な部下の生殺与奪権を与える」という過激な文言が話題を集めた。人気マンガ「鬼滅の刃」に登場する最強の鬼、鬼舞辻無惨(きぶつじ・むざん)の冷酷さを多くの人に想起させたからだ。そのビッグモーターは、実は「経営の神様」と称された稲盛和夫氏の経営哲学を取り入れていた節がある。それなのに“鬼”と成り果ててしまった理由をひもとくと、「稲盛経営」の神髄が見えてくる。(イトモス研究所所長 小倉健一)
ビッグモーターで不正関与104人のうち
61人が「上司からの指示」と回答
中古車販売大手ビッグモーターの内情を知る、元社員らによる数々の不正行為の告発が続々と報道され、今も世間を賑わせている。
特別調査委員会による調査報告書によって明らかになった不正行為も目を疑うものばかりだった。特に話題になったのは、「入庫時には存在しなかった損傷を新たに作出して修理範囲を拡大させる」という不正行為だろう。
中でも「ゴルフボールを靴下に入れて振り回して車体を叩き」、ひょうが降ってできた損傷痕の範囲を拡大するという愚行は有名になった。
というのも、ビッグモーターの創業者である兼重宏行氏(7月26日付で社長を辞任)が、「報告書を見て、こんなことまでやるのかとがく然とした。車を傷付けるなどあり得ない。これは一線を越えている。ゴルフボールを靴下に入れて振り回して損傷範囲を広げて水増し請求する。本当に許せません。ゴルフボールで傷付ける、ゴルフを愛する人に対する冒とくですよ」という迷言を残したからだ。
兼重氏は、調査報告書に挙げられた不正の数々について、会社としての組織的な不正関与を否定した。しかし調査報告書では、不正を行った理由として「不正な作業に自ら関与した」と回答した104人中61人(58.6%)が「上司からの指示」を挙げている。騒動になって以降のビッグモーター社員による匿名証言でも「上司からの指示」があったことが報道されており、会社としての関与がなかったという主張は、極めて疑わしいものである。
7月28日には、国土交通省がビッグモーターの全国34店舗で一斉に立ち入り検査を始めた。京都市伏見区の京都伏見店の男性従業員は「突然の検査に驚いている。最近は、契約した中古車を解約したいというキャンセルの電話もある。会社はどうなっていくのか」(「読売新聞オンライン」7月28日)と動揺を隠しきれなかったようだ。
そんなビッグモーターだが、実は「経営の神様」と称された稲盛和夫氏の経営哲学を取り入れていた節がある。それなのに、なぜ不正が頻発する会社に成り果ててしまったのか。その理由をひも解くと、「稲盛経営」の神髄が見えてくる。一緒に見ていこう。