世界的なスポーツブランドである「ナイキ」。同社と契約を結んだ様々な分野のトップアスリートがナイキ商品を使う姿を見て、ナイキへの憧れを抱いた人はきっと少なくないだろう。こうした世間一般に知られているマーケティング手法をナイキがとる一方、それとは少し異なる手法で「消費者からの憧れ」を作っている部門が存在する。それが、ナイキ中国の「エンターテインメントマーケティング」部門だ。この部門では、芸能人を中心とした社会に影響力のある有名人に、スポンサー契約なしでナイキの商品を使ってもらえるように働きかけを行い、それによってブランド価値を向上させている。中国人といえば、義理人情というより、商人気質が強い印象があるが、“スポンサー契約”という方法を使えないなかで、一体どのように中国の有名人をナイキの虜にしているのだろうか。ナイキ中国で、同部門の責任者を務める森部友彰氏に、その秘訣を聞いた。
スポンサー契約なしで
有名人にナイキを身につけてもらう
――森部さんの担当されている「エンターテインメントマーケティング」とは、一体何を行っている部門ですか?
我々のようなスポーツメーカーは、様々なスポーツ分野で活躍するアスリートのパフォーマンスをサポートすることを使命としています。そして、サッカー、野球、バスケットボールなど各分野のスポーツのトップアスリートと契約してナイキ商品を使ってもらい、消費者の中で「あこがれ」を作ることで、ナイキのシューズやアパレル商品を購入してもらうというのがビジネスモデルです。
社内のマーケティング組織は、「サッカー」、「野球」、「バスケットボール」など各スポーツのカテゴリーごとに構成され、その中に広告、PR、デジタルマーケティングなどのファンクションが配置されています。
しかしナイキには、スポーツの種目では括れないファッション性の高い商品もあります。我々エンターテインメントマーケティング部門は、そのようなスポーツカテゴリー以外の分野で、ナイキに対する消費者の憧れを創り、ブランド価値を高めていく役割を担っています。具体的には、テレビ、映画などマスメディアへの影響力のある、芸能人を中心としたエンターテインメント分野のインフルエンサー(影響力のある人)に、ナイキの商品を身につけてもらう「プロダクトプレイスメント」をすることで、ブランドの露出を高め、クチコミ(Buzz)を広めて、多くの方に「ナイキ=魅力的なブランド」だと思ってもらうためのブランディング戦略をしています。