この4月から小中学校で「生命(いのち)の安全教育」という学習が始まった。
子供たちを性暴力の被害者、加害者、そして傍観者にさせないために「生命の大切さ」や「自分や相手を尊重し、大事にすること」「性暴力にあったときの対応の仕方」などが指導されている。
たとえば、水着で隠れる「プライベートゾーン」は、家族や親しい間柄であっても勝手に見たり、触ったりしてはいけない「自分だけの大切なところ」だと教わる。もちろん口や顔も大切なところだ。
ようやく包括的な性教育を行う機運が高まってきたわけだが、及び腰の自治体も少なくない。
日本の性教育は矛盾だらけの純潔教育に始まり、1960~70年代の女性解放運動や80年代の「エイズパニック」を背景にした追い風の時代を経て、90年代後半~2000年代は、政治的な介入と強烈なバッシングに度々曝されてきた。その影響は今もなお、教育現場を萎縮させている。
学習指導要領にはいまだに「はどめ規定」が残っており、義務教育どころか、高校でも正面を切って「性交(セックス)、性行為」を取り上げることができない。いわゆる「寝た子を起こすな」式の考えだが、つい先頃まで「13歳」を性交同意年齢としていたのだからグロテスクな話だ。
一方、国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)は、包括的な性教育の効果について科学的な根拠を淡々と積み上げてきた。
それによると、適切な性教育を行うことで(1)初交年齢を遅らせる、(2)性交頻度や性行為、性的パートナー数の減少、(3)リスクが高い行為の減少、(4)コンドームや避妊具の使用の増加といったポジティブな影響が認められている。
日本の中学校でも、性について学んだ後は「お互いの同意があっても、性行為に慎重になるべきだ」という考えが増加することがわかっている。
ネット上に性に関する情報が氾濫している現在、「寝た子論」など絵空事だろう。無知のリスクを負わせたくなければ、子供が通う学校で性教育が正しく行われているかどうか関心を持とう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)