岸田政権は「資産運用立国」の旗を振っている。家計に現預金以外での資産を保有してもらおうということである。実際、円安と海外物価高の両面でそのデメリットを家計は認識し始めている。そのデメリットを補うためにこそ家計は円建ての現預金以外、特に外貨建ての資産を持つべきである。(みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔)
ドル円相場が円高の歴史では
なくなりつつある
資産運用の必要性を訴えるムードがかつてなく強まっている。報道を見ても岸田政権の掲げる「資産運用立国」に乗じて家計の資産運用を取り上げる記事が明らかに増えていることを感じる。
2024年以降にNISAの非課税投資枠が大幅に拡充されることもあって、投資先の取捨選別は多くの家計にとって自分事になっているという面もあるだろう。
8月19日の日本経済新聞は『現預金が10年で2割減も?インフレ下のリスク』と題し、日本の家計部門が資産の大半を寄せる円の現預金で保有することのリスクを特集している。日経新聞では同21日にも『機会損失2000兆円、運用立国に挑む 「ふやす文化」推進』と題し、やはり類似の論点を取り上げている。
機関投資家においては「キャッシュ潰し」という言葉があるくらい「現金を無用に持つリスク」が意識されるが、日本の家計部門ではむしろ「たくさん持っておくと安心」という認識がいまだ強い。
だが、後述するように、安全であったはずの円の現預金に放置しておくだけで対ドルでの価値が大きく目減りした近況を踏まえ、「持たざるリスク」がそろそろ日本でも認知され始めても不思議ではない。
図表1を見れば分かる通り、ドル円相場の歴史は基本的に「円高の歴史」だった。よって、為替変動だけに焦点を当てれば「円の現預金」は賢明な選択だったことになる。「円高の歴史」が「デフレの歴史」だったので、理論通りの展開である。
しかし、その様相は大きく変化しつつある。それが家計の資産運用に与える影響を次ページ以降検証していく。