Aさんは午前0時から午前5時までの休憩時間を除く19時間を家事業務及び介護業務の時間として指定されていましたが、このうち、介護業務に係る労働時間は合計4時間30分とされ、それ以外が家事業務の実施時間とされていました。

 AさんはCさん宅の業務を終えた2015年5月27日、都内入浴施設のサウナ室で倒れ、搬送先病院で急性心筋梗塞又は心停止により死亡が確認されました。

 裁判の論点は多岐にわたっていますが、訪問介護ヘルパーとして訪問介護サービスを提供した時間は過労死認定の算定基礎となる労働時間になるけれども、家政婦として家事及び介護を行った時間はそうならない、と判断した部分が重要です。

 この7日間のうち、前者の介護業務の労働時間は31時間30分にとどまりますが、後者の家事業務(介護も含む)は101時間30分で、そこから週法定労働時間40時間を差引いた週61時間30分を月換算すると、月当たり時間外・休日労働時間は272時間強となり、いわゆる過労死認定基準を充たすことになるからです。

 なぜ、同じCさん宅でCさんのお世話をする家事・介護業務でありながら、このように両者を分けるのかといえば、前者におけるAさんの使用者がB社であるのに対して、後者における使用者はCさんであり、前者におけるAさんの地位が普通の会社に雇われて働く労働者であるのに対して、後者におけるAさんの地位は個人家庭に雇われて働く家事使用人だから、という理屈です。

かつて家政婦と家事使用人は別物
しかし職業安定法施行で事態が変化

 本事件において、Xさんの側は、Aさんの介護業務と家事業務が区分できず、一体としてB社の業務に従事していたという主張を(介護保険制度を援用しつつ)しており、さらに家事使用人の適用除外が憲法違反だという主張をしていますが、家政婦の家事業務自体が家事使用人に該当するという点は疑っていません。

 しかしながら、今から76年前の1947年9月1日に労働基準法が施行された時点において、家事使用人は確かに労働基準法の適用除外ではありましたが、家政婦は労働基準法の適用を受けるれっきとした労働基準法上の労働者であったのです。

 この労働基準法と同時に施行された労働基準法施行規則に「派出婦会」という言葉があります。これは派出婦会、家政婦会等々の名称で戦前の1920年代から拡大し、1938年の改正職業紹介法により労務供給事業の許可制が導入されると、その下で運営されるようになった事業のことです。