軍事衝突の激化で
一時上昇した原油価格
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、10月7日にイスラエルへの大規模な軍事攻撃を開始した。これに対して、イスラエルは反撃を行い、今後はガザ地区への地上侵攻の可能性が懸念されるなど、ハマスとイスラエルの間で戦闘が激化している。
ガザ地区とは、中東のイスラエル南部に位置し、パレスチナ人が自分たちで行政を行っている「パレスチナ自治区」のひとつである。1948年にイスラエルが建国されたことでパレスチナ人が領土を奪われ、1994年からはガザ地区とヨルダン川西岸地区でパレスチナによる自治が始まった。
現在、ガザ地区を実効支配するのがイスラム組織ハマスであり、国家として独立することを目的としている過激派組織である。ハマスはこれまでもイスラエルに攻撃を仕掛けることはあったが、今回の軍事衝突は従来にない大規模なものとなっており、経済面では原油や天然ガスなどの資源価格への影響が懸念されている。
WTI原油先物価格は、ハマスとイスラエルの戦闘激化を受けて、中東産油国の原油供給に影響が出るとの懸念が高まり、10月9日に1バレル86ドルへ4%程度上昇した。その後、いったん下落したものの、イスラエル軍によるガザ地区への地上侵攻の可能性が高まると、10月19日には1バレル89ドルまで上昇した。
ただ、イスラエルでは、原油をほとんど生産していない。イギリスの国際石油会社BP社の「Statistical Review of World Energy Data」によると、主要産油国以外の中東諸国(イスラエル、イエメン、レバノン、ヨルダン、トルコ)の原油生産量は、2022年時点で合計日量19.5万バレルとなっており、5カ国合計でも世界シェアの0.2%程度しかない。
BP社の同じデータによると、中東最大の産油国であるサウジアラビアは1050万バレル(世界シェア12.9%)、イラクは445万バレル(同5.5%)、アラブ首長国連邦(UAE)は336万バレル(同4.1%)となっており、主要産油国と比較してもイスラエルの原油の生産量は非常に少ない。
また、サウジアラビア政府は、10月10日に「石油市場の安定に向けた努力を支持する」と表明しており、市場への安定供給を優先する姿勢である。したがって、今回の軍事衝突の影響がイスラエル国内にとどまる限りでは、世界の原油需給が逼迫(ひっぱく)する可能性は低く、実際にWTI原油先物価格は、10月下旬で1バレル80ドル半ばと価格の上昇は落ち着いている。