パレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム組織ハマスが、10月7日にイスラエルに大規模攻撃を仕掛け、イスラエルが報復に出ています。日本でも悲惨な状況が日々報道されていますが、かねてからパレスチナ問題に着目し活動しているアーティストの一人にバンクシーがいます。(E&K Associates代表 長谷川一英)
バンクシーがガザやベツレヘムに描いたアートとは
バンクシーは、正体不明の覆面アーティストですが、イギリス南西部のブリストルという町で生まれ育ったといわれています。地元住民の多くは中産階級(日本人の感覚で言うと富裕層も含まれる)でリベラルであり、中央や権力者に対して抵抗してきた歴史があります。グラフィティーやストリートアートも盛んで、バンクシーも小中学生の時代からスプレー缶を持って描いていたという話もあります。大学での美術教育などを受けていない、まさに、ストリートから生まれたアーティストなのです。
2005年にバンクシーはパレスチナを訪れています。そこで、パレスチナの人たちの生活の困窮状態を知り、この状況を世界に訴える必要があると考えて、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区の分離壁に9枚の作品を描きました。
それらのストリートアートの中には、バンクシーの代表的なモチーフである『風船と少女』を使い、風船に乗って壁を乗り越えようとしている姿を描いたものもあります。
パレスチナの人々はイスラエル兵に呼び止められ、身体検査を受けることがよくあるという話を逆転させ、イスラエル兵が少女にボディーチェックを受けているアートもあります。
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他にも、分離壁の向こうがリゾートであるように見せるトリックアートがあります。壁の向こうとこちらでは環境が全く異なることを表現しています。
一方、ガザ地区に描かれた作品としては、イスラエルの監視棟を支柱として遊園地の空中ブランコを描き、子どもたちが遊んでいる様子を描いたものもあります。
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これらのバンクシーの作品には、ユーモアの要素を盛り込みながらも、パレスチナの人たちの惨状を世界に伝えようという意志を感じることができます。しかしバンクシーのパレスチナでの活動は「描く」だけにとどまっていません。