たった一人の日本人が、世界のマクドナルドを動かした!斬新すぎる企画はなぜ生まれたのか?演出家でアーティストの高山明氏 Photo by Bea Borgers

マクドナルドの店舗で難民から講義を受けるという「マクドナルドラジオ大学」というプロジェクトがあります。2017年から世界の都市で開催されていますが、実はこれを企画したのはある日本人でした。難民の状況を知るという企画が、なぜ資本主義の象徴ともいえるマクドナルドを巻き込むまでになったのか、それを発想・実現することができた彼の思考法から新しい市場を拓くすべを探ります。(E&K Associates代表 長谷川一英)

なぜマクドナルドに「大学」ができたのか
ある演出家の戦略とは

 2023年4月から9月24日まで、東京・六本木のマクドナルドで、「マクドナルドラジオ大学」が開催されています。これは、店内に掲示してあるQRコードにアクセスすると、講義を聴くことができるプロジェクトです。私たちは、ハンバーガーを食べながら、建築、生物学、文学からスポーツ科学にいたるまで、さまざまな講義を聴くことができます。

 このプロジェクトがユニークなのは、講義をする「教授」が、おのおのの理由で故国を離れることになった難民だというところです。

 私たちは、難民と一まとまりにして語ってしまうことが多いのですが、それぞれに個性があって、祖国においては自分の仕事や生活がありました。プロフェッショナルな仕事をしていた人も少なくありません。

 しかし、難民として他国に来ると、自分の経験を生かす仕事につけないことが多いのです。自分の活動のためにビザをとって入国してくる人たちとは異なり、難民は受け入れてもらっている立場で、自由度がかなり低くなってしまっているのです。

 そこで、演出家でアーティストの高山明氏が、難民と受け入れ側という不均衡な関係を覆すことを目的に「マクドナルドラジオ大学」を企画しました。

たった一人の日本人が、世界のマクドナルドを動かした!斬新すぎる企画はなぜ生まれたのか?2019年に東京・六本木で開かれたマクドナルドラジオ大学 提供:PortB

 高山氏が、最初にこのプロジェクトを行ったのはドイツのフランクフルトで、2017年のことでした。それ以降、ベルリン、ブリュッセル、香港、金沢、東京と開催地を拡大しています。マクドナルドという飲食店を、難民の状況を知ってもらう場に、あるいは高度な知識を伝える場に変えることで、普段はマクドナルドに来ないような人たちをも呼び込みました。日本では難民に出会う機会もあまりない中で、この問題に気づき考える新たな場を提供したということができます。

 このプロジェクトは、高山氏の一朝一夕の思いつきで出来上がったわけではありません。どのように思考して、このプロジェクトを創っていったかを見ることで、新市場型イノベーション(既存の市場に新たな技術やアイデアを持ち込み、まったく新しい価値観を創造し、ニーズを作り出すイノベーション)を起こすにはどうしたらいいかを考えてみましょう。