300万円の補助金を受け
厩舎を改装したブルワリー
悲願のブルワリーは、大きめの一軒家ほどのサイズがある厩舎を改装して設置した。当然、これにも少なからずコストがかかるわけだが、「長野県ソーシャル・ビジネス創業支援金」に採択され、300万円の補助金を受けることで解決した。
ブルワリー名は「Nobara Homestead Brewery」と決めた。「野ばら」は実は、2人とって思い出深い植物である。
「夫がもともと実つきの野ばらが好きで、よく買ってきて部屋に飾っていたんです。そこで結婚式を挙げる際にも、これからたくさん実のなる人生を一緒に送りましょうとの想いを込めて、会場を野ばらの実で埋め尽くしたんです。偶然にも、こうして引っ越してきたら、裏山に野ばらがたくさん自生していて、これはもう運命だと感じました」


記念すべき初仕込みは、2022年12月。しかし、「最初の醸造分はレシピを間違えてしまい、全量廃棄せざるを得ませんでした」と、ルーキーらしい失敗談を語る圭佑さん。
それでもその後は極めて順調で、自家栽培の原材料も取り入れながら、ブルワー(醸造家)として思いのままに腕をふるっている。
「青木村には四季折々の野草がたくさん生えていますから、今後、それらを使った季節ごとの特徴があふれるビールをつくっていきたいと考えています。せっかくのこの環境ですから、最終的にはすべての原料を自家栽培で賄うのが次の目標ですね」
クラフトビールの種類の1つに、「セゾン」というベルギー発祥のスタイルがある。いまではセゾン酵母を用いたビールの総称として使われているが、もともとは農繁期の農家が作業の合間に喉を潤すために仕込む、自家製ビールを指す言葉であった。
つまり農作業の傍ら、自家栽培にして有機栽培の原材料を使って仕込まれる「Nobara Homestead Brewery」のビールは、いまの日本では珍しい、究極のセゾンビールを体現していると言える。
実際、まだピカピカのブルワリー内で、いくつかの種類をテイスティングさせてもらったところ、いずれもホップや酵母が織りなす芳醇な香りと、滑らかできれいな酒質が際立つものばかり。圭佑さんの技術もさることながら、水と空気のきれいな環境でなければ、これほどの品質は生まれないだろう。
