残念な経営者の考え方とは?

 一生懸命に働くと、その結果としてようやく利益が出るわけですが、利益がぎりぎりしか出ないように手を抜いて働くのは難しいものです。ちょうど学校で落第をしない程度にうまくさぼるのが一番難しいのと同じことです。優等生で卒業するというのはまだ易しいけれども、合格点すれすれで落第をしないで卒業するのが一番難しい。つまり、自分の給料だけは取って、税金を払わないで済む、すれすれの業績にしようというのが一番難しいわけです。

 また、税金を払いたくないと思うということは、利益が出ては困ると思っているわけです。利益が出ては困るという意識を、潜在意識下にもっていながら、会社をもっと大きくしたいとも思っておられる。多くの中小企業経営者の方が、そういう矛盾したメンタリティをもっていらっしゃる。それでは会社が大きくなるわけがありません。

従業員はわかっている

 そういう意識をもっていると、それがそのまま従業員に伝わっていきます。従業員は全部わかっています。だから、従業員に「がんばれ、がんばれ」と言ったって、がんばるはずがありません。そして先ほど言ったように、「そんなにあくせく働いて利益を出して、税金に取られるのはアホらしい。たった一回しかない人生、もっと楽しくいこうではないか。人生はとことん楽しくなければならない。うちの会社はおもしろく楽しくいくようにしよう」と考えるのです。

 そういう会社もあっていいのですが、その程度の考え方であれば、その程度の会社で終わってしまいます。

 また、中小企業の場合は力がないものですから、今のように景気が悪くなっていくと、不平不満をこぼされます。「今の政府のやり方がおかしい。地方の行政府のやり方がおかしい。もっともっとわれわれに援助してほしい。中小企業は苦しいんだ。低金利の融資をしてくれ」などと、環境の不備にばかり目を向ける方がおられます。そのような考え方では、自分の会社を伸ばすことはできません。

 環境が厳しくなればなるほど、自分の会社は自分で守らなければなりません。誰も助けてくれません。自助努力こそ経営の基本なのです。やはり経営とは、まさにトップがもつ考え方に起因するものなのです。

(本原稿は『経営――稲盛和夫、原点を語る』から一部抜粋したものです)