「朝礼」という言葉を聞くと、ムダで非効率な日本企業の悪習という印象を持っている人が大半ではないだろうか。しかし、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏は毎日の朝礼を重視していた。他の経営者からも、「バカバカしい風習だ」と思っていた朝礼の効果的な側面に気付いて導入した、という言葉が聞かれる。それらの真意とは何か。(イトモス研究所所長 小倉健一)
誰もがムダだと思っている「朝礼」も
経営に役立つ一面がある
朝礼。小学校を卒業して約30年、社会に出て20年ほどたったが、私は中学校に入学して以来、「朝礼」の経験がない。日本国民のほとんどは朝礼などムダだと思っているのではないだろうか。もっと言えば、反論の余地もなく上司のメッセージを一方的に聞くだけの朝礼など、苦痛ではないだろうか。
こんな時代に朝礼が好きな会社の特徴について、ファミリーマート元社長の上田準二氏は、こんな指摘をしている。
「自分がオーナーなのだから、社員はもちろん、『竈(かまど)の下の灰まで』会社は全て俺のモノ。業績が向上したら自分の手柄で、悪化したら社員が悪い。相談者さんの会社の社長も、そういう考えを持っているんだろうね」
「こういうタイプの社長は、なぜかそろって朝礼が好きなんだよね。早朝に取引先を訪ねてみたら、整列した社員たちが訓示に耳を傾けていることがよくあった」(「日経ビジネス」電子版、2022年4月5日)
いわゆるパワハラ系という人だろう。「俺について来られないなら転職しろ」などと言い出しかねない人たちだ。話も長く、抽象論に終始しがちだ。
しかし一方で、社員や組織をどうまとめ上げるかということを経営者は常に悩んでいる。さらには、人間はいくら業務の技能が上達し、現場の第一線で活躍していても、基本的な動作・所作を忘れてしまいがちだ。
ちょっと野球の話に脱線するが、野村克也監督時代にヤクルトスワローズの黄金期をつくった古田敦也氏のエピソードをご紹介したい。古田氏はピンチになるとピッチャーの周りに野手を集めたが、その際に話すのは「気合入れてくぞ」という観念的なものではなく、基本動作の確認の徹底だったという。
つまり、「こういうシチュエーションになったら、こういう風に動く」という当たり前のことを、もう一回確認していたというのだ。プロ野球選手であれば、言われなくても分かりそうなものをとにかくおさらいしていく。これは、会社組織であっても同じように大事なことだろう。
必ずしも「朝礼」という形を取る必要はないかもしれない。私は朝礼をしなかったが、部下とコミュニケーションを取るたびに、当たり前のことを何度も繰り返し伝えていた。とはいえ、朝礼という慣習が多くの企業に残っているのも事実だ。便利な一面もある。
そこで今回は、朝礼の実践例について述べたい。実は、「経営の神様」と称された稲盛和夫氏は毎朝1時間の朝礼を実践していたという。他社の事例と併せて、その内容がどんなものだったのかをご紹介しよう。