京セラ創業、KDDI躍進、JAL再建――稀代の名経営者、稲盛和夫は何を考えていたのか?
2つの世界的大企業、京セラとKDDIを創業し、JALを再生に導きますが、稲盛和夫の経営者人生は決して平坦なものではありませんでした。1970年代のオイルショックに始まり、1990年代のバブル崩壊、そして2000年代のリーマンショック。経営者として修羅場に置かれていたとき、稲盛和夫は何を考え、どう行動したのか。この度、1970年代から2010年代に至る膨大な講演から「稲盛経営論」の中核を成すエッセンスを抽出した『経営――稲盛和夫、原点を語る』が発売されます。刊行を記念して、本書の一部を特別に公開します。

「この会社は伸びない」残念な経営者に共通する”考え方”とは?Photo: Adobe Stock

「どうすれば儲かるんですか?」稲盛和夫の答え

 京セラは、皆さん方の会社よりはるかに小さい零細企業として、京都の中京区西ノ京原町で宮木電機の倉庫をお借りして始まりました。かつては中小零細企業だったわけですが、以前、中小企業経営者の方々とおつき合いをしていて、あるときこんなことを言われました。

「稲盛さん、あなたは会社が大きくなったのに今でも気が狂ったように朝から晩まで働いている。京セラが立派な会社になって相当財産もできたんじゃありませんか。それでもまだあくせく働く。あなたはいったい、いくら稼げば満足するんですか」

 私には、「これだけお金をもうけよう」とか、「これだけ京セラを発展させよう」という考え方はありません。ないものですから、とことんがんばっているのです。ですが、その人にそう言われてびっくりしてしまいました。

 よくよく考えてみると、その方は個人財産をもう一〇億円つくられた。会社は毎年一億円、二億円の利益が出る。従業員も少ない。先代からの資産も五億円ほどもっておられる。

 ですから、「もうこれで十分ではないか。使い切れないほどのお金がある。なんでそんなにあくせく働かなければならないのか」と思っておられるようなのです。そういう考え方をしておられますから、打ち止めなのです。

「考え方」が間違っていると、何をしても上手くいかない

 そうであるのに、その方は「いや、うちの会社も伸びたい」とおっしゃいます。私に言わせれば、その方自身の考え方が伸びないようにしているのです。そのことに気づいていらっしゃいません。

「伸びなくてもいいとは思ってはいない。うちの会社だってもっと伸ばしたい」とおっしゃるのですが、一方で「もう個人資産も一〇億円できた。それに、そんなにあくせくしなくても、毎年利益が一億円や二億円出るんだから」とも思っておられる。自分自身の深層心理、潜在意識の中で「これ以上会社は伸びなくてもいい」と思っていらっしゃるのです。

 にもかかわらず、私が「会社をどうしたいと思っておられるのですか」と正面きって尋ねると、「うちの会社も京セラのように伸ばしたい。稲盛さん、どうすればそんなに伸びるのか、教えてほしい」とおっしゃる。それは教えてもらってどうにかなるものではありません。自分自身の考え方、メンタリティの中に、伸ばそうという考え方が、インプットされているかどうかなのです。

 中小企業の社長を務めておられて、例えば月給を二〇〇万円もらっているとします。月給二〇〇万円もらっているという方は、年俸二四〇〇万円です。そういう方が一生懸命がんばって、利益が例えば五〇〇〇万円出たとします。その場合、税理士さんに対して、「なんとか、税金を払わないで済むようにならないか」と言われるのがまず普通だと思います。

経営者がハマる罠

 一生懸命汗水たらして働いて五〇〇〇万円の利益が出たとすると、国はその半分の二五〇〇万円を税金としてもっていきます。自分は月給二〇〇万円で、朝早くから晩遅くまでたいへんな苦労をして、汗水たらしてがんばって二四〇〇万円もらったのに、何も手伝ってもくれなかった国や都道府県や市町村が二五〇〇万円をもっていく。そのことにもう腹が立って腹が立って、もうアホらしくてアホらしくて仕方がない。

「自分はこれだけ努力をし、苦労をして二四〇〇万円もらうのに、何の苦労もしていない奴に、なぜそれ以上取る権利があるのか」。相当世間をわかっておられる方でも、そういう憤りを感じられるでしょう。

「なんで取られなければならないのか」ということの次に思うのは、「こんなに税金を取られるなら、働くのはアホらしい」ということです。そしてその次は、「なんとかチョロまかそう」と思うか、「二五〇〇万円も取られるのはアホらしいから、ほどほどに働こう。ただし、自分の給料の二四〇〇万円は欲しいのでその分は働こう」と思うかのどちらかです。