クマ写真はイメージです Photo:PIXTA

クマによる人身被害が後を絶たない状況だ。本来は臆病だとされるクマは、なぜ人間を襲い始めたのか。クマの生態に詳しい、NPO法人・日本ツキノワグマ研究所の米田一彦理事長に聞いた。米田氏はクマに9回襲われ、そのたびに生還した経験を持つ。インタビュー前編となる今回は、最近になって知られ始めた「アーバンベア(都会化したクマ)」の意外な正体と、人を襲う理由、そして2025年にクマの人間襲撃がさらに増えるリスクがあることなどについて解説する。(ダイヤモンド編集部 濵口翔太郎)

クマによる被害人数が
統計開始以来で最多に

「クマが人を襲い、けがをさせた」「襲われた人が亡くなった」。そうした凄惨な事故が連日のように報道されている。

 環境省が11月1日に発表した速報値によると、2023年4~10月にクマに襲われたのは180人。06年に統計を開始して以来、最多を記録した。このうち死亡者数は5人に上る。

 クマは本来、臆病な性格であり、人間に対する警戒心も強いとされる。にもかかわらず、なぜここに来て私たちを襲い始めたのか。その理由を、NPO法人・日本ツキノワグマ研究所の理事長を務める米田一彦氏に聞いた。

 米田氏は秋田大学教育学部を卒業後、秋田県立鳥獣保護センターに勤務。1986年以降はツキノワグマの研究に専念し、89年に同研究所を立ち上げた“クマの専門家”である。

 また、米田氏はクマの観察や追跡調査を行う際、遭遇・捕獲したクマに9回襲われ、そのたびに生還した稀有な経験を持つ。クマの生態や有効な対策について身をもって知る、まさにスペシャリストだ。

 米田氏へのインタビュー記事の前編となる今回は、報道などで耳にする機会が増えた「アーバンベア(都会化したクマ)」の正体について解説する。

「森と街」の境界線を踏み越えて、人里付近に現れるようになったクマを指す新語だが、米田氏は「そうしたクマは昔からいた」と話す。では、なぜ今、急に問題になっているのか――。

 また、米田氏はクマによる人身被害について、2年後の25年には「今年以上に被害件数が増えるかもしれず、警戒が必要」と警鐘を鳴らす。その理由とは何なのか。

「ドングリ凶作説」だけでは
被害増の理由を説明できず

――クマによる人身被害が過去最多のペースで推移しています。なぜクマは人里に近い場所に出没し、人を襲うようになったのでしょうか。

米田:林野庁は「クマのエサになるドングリ(ブナの実)の大凶作が影響している」などと説明していますが、私はそれだけではないと考えます。