合議審か単独審かで
執行猶予を予想できる理由
冒頭に「執行猶予の線で固まった」と書いたが、その理由は複数の裁判官による合議審ではなく、裁判官1人による単独審になったことが大きい。一審が地裁の刑事事件は原則として単独審だが、裁判所法26条で「死刑又は無期若しくは短期1年以上の懲役若しくは禁錮に当たる刑事事件」(法定合議事件)か「合議体で審理・裁判する旨の決定をした事件」(裁定合議事件)は3人の裁判官による合議審になる。
意外に知られていないが、新聞やテレビが「○○裁判長は~」「○○裁判官は~」と区別して報じているのは、前者が合議審、後者が単独審と明確な違いがあり、分けているのはきちんとした理由があるのだ。
ではなぜ今回、法定刑が「6月以上7年以下の懲役又は禁錮」である自殺幇助罪に問われたのに、合議審でなかったのかといえば「合議審で審判すべきもの」ではないと判断されたからとみるのが妥当で、それ故に司法担当記者らが「公判内容に争いがなく、執行猶予で決着という『あうんの呼吸』ができているな」と推測できたわけだ。
それに加え、警察・検察に嘱託殺人や承諾殺人(同意殺人罪)についてあまり深く検討した気配がないことだ。もちろん向精神薬の容器や両親にかぶせたとされるビニール袋などが処分されていたため物的証拠はなく、供述頼みという側面はあっただろう。
供述にもあるビニール袋をかぶせた行為は両親を死に至らしめた「殺人の実行行為」ともいえ、もちろん同意殺人罪の可能性は疑っただろうし、供述に矛盾はないか確認もしたに違いない。ただ、自殺幇助罪と同意殺人罪は一般の人にとって受けるイメージはかなり違うが、実は法的に同一構成要件の犯罪で法定刑も同じ。それ故検察側に「危ない橋を渡る必要はない」という判断があったとみることもできる。