他の要素を取り除いて単独で評価すると、「円安」はインフレ率の上昇を通じて長期金利の上昇材料ではある。しかし、市場はむしろ、新体制になる日銀が国債の買い入れ対象とする年限の延長と、買い入れ額の増額を行うのではないかと期待して、長期債を買い進んでいるようだ。

効果を発揮する経路は十分ある
市場は何を「期待」しているのか

 マイルドなインフレを目指す政策に対して批判的な人々は、インフレ目標付きの金融緩和で、円安や株高が起こる理由が納得できないらしい。

 しかし、「期待(=予想)への働きかけ」には、効果を発揮する経路が十分ある。

 投資家にとって、将来の物価変動は不確実だ。上昇する可能性と下落する可能性の両方がある。これは、誰もが認める点だろう。

 問題は、将来物価が小幅であっても、上昇した場合に何が起こるかだ。この場合、インフレ目標が0%あるいは1%であれば、中央銀行が金融緩和政策を止める可能性があるし、福井総裁時代のゼロ金利解除のように短期金利が引き上げられる可能性がある。しかし、インフレの目標値が2%だと明確になっていれば、こうした可能性はかなり遠のく。

 これは、確率的に評価した将来の実質金利の期待値の低下を意味する。また、現実的な問題として、ほぼゼロの短期金利で金利の上昇を心配することなく円資金を借り続けることができる期間が、より長くなることをも意味する。

 為替市場にとって、将来の実質金利の低下は円安材料だし、後者は、低金利の円を借りて、外貨建ての資産に投資する「キャリー・トレード」をよりやりやすくする効果を持つので、共に合理的円安材料だ。

 このあたりの事情は、昨年の2月14日に日銀が1%の目指すべき「物価上昇率のめど」を発表した、いわゆる「バレンタイン緩和」のサプライズと、その後の為替レートの動きからも理解することができる。