菅義偉「官邸の決断」Photo:JIJI

菅義偉氏が次期衆議院選挙に出馬せず、政界を引退することを表明した。安倍政権の官房長官として約8年、自身も首相として約1年国家の運営に携わり、官邸の中枢での決断を担ってきた菅氏が考える「リーダーの資質」とは何か。昨年12月に発売した『菅義偉 官邸の決断』から、その一部を抜粋して公開する。NHK大河ドラマ「豊臣兄弟!」でスポットライトを浴びているのが、兄・秀吉を支えた弟・秀長だ。菅氏は、かねて秀長の生き方に印象を受けており、安倍晋三元総理を支える自分と重ねる。秀長に通じる菅氏のスタイルとは。

※この記事は『菅義偉 官邸の決断』(菅義偉・ダイヤモンド社)から一部を抜粋・再編集したものです。

兄を裏から支えた
豊臣秀長に共感

 政治、国家運営は一人ではできません。政治だけでなく、会社経営、あるいは個々人の人生においても、支えてくれる人が必要であり、あるいは誰かを支える経験も必要です。

 私の愛読書に堺屋太一著『豊臣秀長 ある補佐役の生涯』(現在はPHP文庫より刊行)があります。38歳で横浜市議会議員選挙に立候補し、当選した1987年前後に書店で見つけて手に取ったものです。もともと、歴史小説が好きで読んでおり、衆議院議員だった小此木彦三郎先生の秘書を務めていた頃には、支援者の方から『三国志』を読むように勧められたこともあります。

 実は学生時代から吉川英治さんの小説は読んでいたのですが、「権謀術数や足の引っ張り合いは昔から変わらないから」と、『三国志』の時代と同様、裏切りや権力について、人間社会について改めて学んだのを覚えています。

 一方、『豊臣秀長』は織田信長や豊臣秀吉、徳川家康といったリーダーではなく、兄を支えた弟が主人公です。リーダーが困難に直面する際、裏方や側近、スタッフはどのようにしてトップを支えるのか。本書からはそのことを学ぶことができます。

 農家に生まれた豊臣秀吉がなぜ天下人になるまで大成できたのかについては、秋田のいちご農家に生まれた私もかねて気になっていたのですが、本書は秀吉のいいところだけ、サクセスストーリーだけを描くのではなく、ピンチを支えた弟・秀長の存在をクローズアップしています。

 初めは天下取りなど考えてもいなかった秀吉が、秀長の支えを得て、大きな時代の流れを泳いでいく中で頭角を現していき、ついにトップの座に就く。自分は表に出ずに物事が前に進むよう段取りを取る秀長の生き方はとりわけ印象的でした。

 中でも印象に残っているのは、岐阜県大垣市の「墨俣一夜城」(注・豊臣秀吉が一夜にして築いたとされる城)など、秀吉ができそうにもないことをやり遂げていく傍らには、常にそれらの段取りをつける秀長がいたことです。

 官房長官時代には安倍総理にとって、自分がそうした役割を果たさなければならないと思うと同時に、戦略をきちんと練れば、不可能と思われたことでもやり遂げられる、と学びました。また、自分が総理となってからは、支える側の立場を経験したことが大きな糧となり、政権運営にも生きることとなりました。

 26年のNHK大河ドラマは「豊臣兄弟!」と題し、秀吉ではなく秀長が主人公だそうです。どのように秀長が描かれるのか、私自身も楽しみにしています。