2022年度の小中学校における不登校者数が過去最多の29万9048人、小中高校などで判明したいじめ件数も過去最多の68万1948件になったと文科省の調査が発表されました。本連載では、20年にわたり、学校の外から教育支援を続け、コロナ禍以降はメタバースを活用した不登校支援も注目される認定NPO法人「カタリバ」の代表理事、今村久美氏の初著書「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から、不登校を理解し、子どもたちに伴走するためのヒントを、ピックアップしてご紹介していきます。「不登校」という事象について考えるときに、本人へのケアという個人に着目した視点と、教育環境との相性や教育制度など、個人を苦しめている社会の側に視点をおいた考え方など、幾つかの視点があります。ここでは個人に着目した考え方の一つを本書から紹介します。
まずは、感情的にならないように
子どもから「いじめられた」という話を聞くと、まるで自分のことのように傷ついたり、頭にきたりしてしまうことがあるかと思います。わが子を守るべく、即座に行動に出たくなってしまうこともあるかもしれません。
でも、親が感情的に動いて、よい結果につながることは、あまりありません。
思春期の子どもであれば、親が先生や相手の親に働きかけておおごとにすることで、さらに自分が窮地に追い込まれるのではないかと危惧し、心を閉ざしてしまうこともあります。
実際、親が先生や相手の親と日頃から信頼関係を築いていない場合、突然乗り込んでいくことで、事態が悪化してしまう可能性もあるでしょう。
子どもが自分で解決できるか
子ども本人に対しては「いじめの有無」を問い詰めることより、「友達とどんなやりとりをして、その時にどんな気持ちになったのか」を少しずつ言葉にしてもらうことが大切です。
それに対して急いで解決策を示そうと考えず、「話してくれてありがとう」「あなたが悲しかったことは、お母さんも悲しいと思ったよ」など話を聞いたことで感じた共感の感情を伝えながら、友達との関係をどうとらえるのか、時間をかけて一緒に考えていくのはどうでしょうか。
そのトラブルがきっかけで「学校に行きたくない」と言い出した時は、頑張って自分で解決していくエネルギーが残っているのか、いったん学校を休んでその人間関係から離れて過ごすほうがいいのか、本人の様子を見極めながら、「どちらを選んでも、あなたを応援するから大丈夫だよ」と伝えてあげましょう。
同時に「その友達とうまくいかなくても、ここではない別のところには、きっと分かり合える友達は見つかるはず」という大前提も伝えてあげたいですね。
「深刻な状況」なら介入すべき
いじめについては、本書の第2章でもお伝えしたように、放置していれば大きな問題につながるケースもあり得ますので、慎重に情報を集め、介入すべきタイミングを判断するのが大事です。
起きていることをしっかり把握し、子どもの気持ちを察しながらも、動くべき深刻な状況であると判断したなら、子どもの命を守る覚悟で、介入すべきでしょう。
ただ、ちょっとした人間関係のトラブルであれば、これは大人になってもよくあること。誤解を恐れずに言えば、親が先回りして解決に走り回ることが、子どもの成長の芽を摘んでしまう可能性もありますので、子どもが自分で解決できるように伴走することのほうが大事な時もあります。
第3章で紹介した「レジリエンスのボール」を少しでも強く大きく育てていくことは、自立のための準備です。生きていれば、いろんなことがあります。
「小さな傷つき経験」と「それを乗り越えた経験」の数が、レジリエンスのボールを大きく丈夫で弾力性のあるものに育てていくとも言えます。
緊急を要するような悪質ないじめではなく、長期的に見て、心を育てる「傷つき体験」だと思える必要な体験であれば、子ども自身が問題を乗り越えられるよう、家庭での振り返りを中心に、よき伴走者として関わりましょう。
この判断は本当に難しく、私自身も自分の子との関わりに日々反省しきりですが、大切なのは、子どもたちが歩く道を舗装して、つまずく石ころさえない状況をつくることではなく、子どもが安心してつまずきを乗り越え、体験を学びに変えられる環境をつくることだと思います。
*本記事は、「NPOカタリバがみんなと作った 不登校ー親子のための教科書」から抜粋・編集したものです。