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ふだんの食事をほんの少し工夫するだけで、老化を防ぐことができる?間違った情報にまどわされず、今日の食事を自分で選びとるには――。食品生化学の第一人者が、最新データと科学的エビデンスをもとに、健康に長生きするための食事をわかりやすく解説。本稿は、佐藤隆一郎『健康寿命をのばす食べ物の科学』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。
年齢の重ね方は一緒でも
老化のペースはそれぞれ違う
最近、個人の老化ペースを評価した興味深い論文が発表されました。これは、ニュージーランド南島のダニーデン市で1972~73年に生まれた1037人の市民を、26歳から45歳までの20年間にわたって追跡した研究です。
この研究ではHbA1c値(血糖値評価指標)、心肺機能、腎機能、免疫機能など19種類の測定データから老化ペースを算出しています。その結果、一年経過すると2.44歳老化が進んだ人がいる一方で0.4歳しか老化が進まない人もいることがわかりました。また、老化速度の速い人は見た目も実年齢より老けて見え、不健康に見えるということも示されています。
たとえば小学校の同窓会に出席すると、同級生なのか先生なのか区別がつかない人がいて、老化速度が一様ではないことを感じたりします。
近年、老化についての研究は大きく進展しており、そこから新たな概念が次々と提示されています。たとえば加齢に伴い腎臓機能が低下したという場合、それは腎臓を構成する細胞が一様に老化するわけではなく、まず数個の細胞で老化が始まり、さらに周辺に老化細胞が増えていった結果であると考えられています。
生命活動に伴い、体内では活性酸素種(ROS)が産生され、細胞を傷つけます。また紫外線、化学物質などによりDNAが損傷を受けることもあります。これらの機会は年を経るにつれて積み重なっていきますので、老化細胞数は加齢とともに増えることになります。
老化細胞は活性が低下し、消滅していけばよいのですが、細胞老化関連分泌形質(SASP)と呼ばれるサイトカイン、ケモカインなどを分泌して周りの細胞に慢性炎症を引き起こし、この刺激が周辺細胞の老化を促すと考えられています。またSASPは分泌する細胞自身にも働きかけ、老化をより進行させる役割も果たします。つまりSASP分泌を介して、老化細胞が周りの正常細胞の老化を促しているということです。
老化細胞を除去することで
老化の進行が抑制される
この新しい概念を支持する知見として、次のような実験結果があります。まず、ある種の細胞に放射線を照射してDNAを傷つけ、老化様細胞を人工的につくりだします。これをマウス体内に注入し、一方でコントロールマウスには放射線を照射していない正常細胞を注入します。
1カ月後、その後の変化を観察すると、老化細胞注入マウスでは歩行速度の鈍化、持久力、筋力の低下が有意に認められ、老化が進行していることがわかります。また、さらに一定期間追跡すると寿命の短縮が観察されます。
つまり組織全体の老化の火付け役となるのは散在する少数の老化細胞で、これにより老化は促進されます。さらに同様の試験で老化細胞注入マウスに高脂肪食を長期間与えると、老化速度はさらに早まり、高カロリー食は老化を早めると言えます。
また、これらの老化細胞を駆逐すれば老化の進行を遅らせることができると予想されます。老化細胞を除去することをセノリシス(senolysis)と呼び、最近の研究で、これにより老化の進行が抑制されることが明らかにされつつあります。
すべての細胞は、細胞内の種々の成分を分解するリソソームという細胞内小器官を持ちます。細胞は自身の活動・増殖のためにタンパク質・脂質を合成しますが、それと同時に不要となった成分をリソソームで消化・分解します。リソソームはいわば、分解工場として機能しています。
細胞内では通常、pHが中性付近に維持されるのに対してリソソーム内ではpHが低く、酸性になっています。リソソームには多数の分解酵素が含まれ、その大半はpHが低い環境下で分解活性が発揮されるようになっています。これは何かの拍子にリソソームから分解酵素が細胞質に漏れ出て、中性pH付近で細胞内の必要な成分を勝手に分解してしまうことを防ぐためと考えられています。
ところが細胞が老化することに伴いリソソーム膜は脆弱となり、リソソームの内容物が漏れ出て細胞質のpHが弱酸性化していきます。老化細胞内が酸性化しても大丈夫かというと、そうではありません。老化が進むにつれてリソソームからの漏出が亢進すると不必要な細胞内分解が進み、やがて老化細胞自身が死に至ります。
老化細胞は自身を保護するため、pHが下がりすぎないよう工夫をします。細胞内にはアミノ酸のグルタミンをグルタミン酸に変換させるグルタミナーゼという酵素が存在し、アンモニアを発生させます。







