美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。(初出:2023年11月22日)
葛飾北斎の浮世絵は何が「すごい」のか?
こちら! 葛飾北斎が富士山を描いた『冨嶽三十六景』シリーズの1枚、「神奈川沖浪裏」です!
──おおお~! これは超有名ですね!! それにしてもダイナミック。大波が「バッシャーン!」と迫力が伝わります!
ほんとですよね。波の高さはだいたい10~12mくらい。つまり4階建てのビルくらいの高さですので、相当な荒波だったんでしょうね。
──4階建てのビルの高さ! そう思うとなおさらすごいですね…。え、それにしてもどうして波の高さまでわかるんですか?
絵には船が3艘描かれています。当時、鮮魚の輸送などに使われた押送船(おしょくりぶね)と呼ばれる船なんですが、この船の長さが一般的にだいたい12~15mであることと、絵全体の縮尺率を鑑みることで、波の高さを推測できるんです。
──すごい、そんなことができるなんて。てか、船なんて描いてあったんですね。今初めて気が付きましたよ。
そうそう。パッと見ただけだと意外と気が付かないんですよね。なんなら、人間も描かれているんですよ? ほら、荒波に耐えようと船のへりにまるでアブラムシのようにへばりついています。
──いや、たとえ方!(汗)でもほんとにへばりついてる! かわい~!
でしょ?(笑)そして荒れ狂う波のかなたに小さな富士山が見えるっていうのも、とっても粋なんですよね。
空は明けてきているのに対し、富士山のある低い位置はまだ暗がりの中にあることから、おそらく早朝なんでしょう。空高く立ち上がる雲は積乱雲かもしれません。
つまり、「天候も悪く波も荒れる中、早朝から船を出す男たちを描いた絵」になりますね!
──まとめるとかっこいいですね~。なんだかもっと好きになりましたよ! あ、こっちの富士山もかっこいいですよ!
同じく『冨嶽三十六景』の「凱風快晴」という作品ですね。富士の樹海から赤く染まる富士山がそびえ、頂には雪渓がかすかに残っています。
赤い富士山に対してうしろの白いイワシ雲と青い空がとても美しいですね。
──ほんとですね、なんだか爽やかです! 三十六景ってことは、この2枚以外にあと34枚もあるってことですよね? 北斎のアイデア半端ないですね!
いえ、それがですね。実は『冨嶽三十六景』は、全部で46枚あるんですよ。
──えぇ~! 36枚描いたから「三十六景」じゃないんですか?
最初は『冨嶽三十六景』の名前のとおり、36枚のシリーズで発表したんです。
ただ、あまりにも人気が高かったために、追加で10枚描かれて46枚になったんですよ。
今では最初に描かれた36枚を「表富士」、残りの10枚を「裏富士」と呼んだりしますね。
──ひょえ~。そんなに人気だったんですね。さすが北斎!
(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)