バイナンスと暗号資産の夢の終わり Photo:David Ryder/gettyimages

 暗号資産(仮想通貨)交換業最大手バイナンスは21日、米国の資金洗浄防止規制に違反した罪を認めた。最高経営責任者(CEO)は辞任し、会社は43億ドル(約6420億円)の罰金を支払うことで米当局と合意した。巨額の罰金が大きく報じられているが、政府と暗号資産の関係を根本から変えるものは合意の細部にある。

 米当局は今回の合意について、暗号資産業界が米国の法律を順守する上で重大な分岐点と評価している。まさにその通りで、暗号資産業界は自らを責めるしかない。暗号資産の考案者は政府の監督や監視が入り込めない分散型の貨幣システムを作りたいと考えた。ところが暗号資産経済はバイナンスやコインベースのような交換業者の周辺に徐々に集中するようになった。こうした交換業者は顧客による蓄財や暗号資産の乗り換えを可能にする一方で、政府にも大きな機会をもたらしている。中心的な当事者が米規則を受け入れるにつれて暗号資産は飼いならされ、政府の影響力が暗号資産経済の中心へと拡大する。

 暗号資産を支える主要なイノベーションであるブロックチェーン(分散型台帳)は、複雑な数学とゲーム理論をシンプルな政治的目標に応用している。つまり、それを制御する中心的存在のいない貨幣を作るというものだ。君主や大統領は戦争遂行や歳出増のために貨幣を鋳造してきたが、ビットコインやイーサリアムといった暗号資産はどのような形でも集中管理ができないように設計された。権威をものともしないブロックチェーンは個人が支配しないコードで動きつつ、資金の移動を記録している。